肝炎治療;最近の進歩
HBVワクチンの新たな展開
Pharma Medica Vol.29 No.10, 37-41, 2011
はじめに
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)ワクチンは,B型肝炎の予防に必要不可欠であるが,B型肝炎の研究の進歩に伴い,新たな問題も起きてきている。本稿ではそのいくつかを紹介したい。
KEY WORDS
●HBs抗体 ●追加接種 ●不応 ●ユニバーサルワクチネーション
Ⅰ.ワクチンの長期予防効果と追加接種の必要性
HBVワクチンを3回接種することにより,乳幼児では95%以上,成人でも90%以上で中和抗体であるHBs抗体が陽性となる1)2)。抗体価は接種終了後低下をはじめ,健康な成人の場合,HBs抗体が100mIU/mLの強陽性となっても接種3年後には約半数の症例で,HBs抗体が陰性(10mIU/mL未満)となる3)。
HBVワクチン接種でいったんHBs抗体陽性となった者が陰性化した場合に追加接種(ブースター)を行うかどうかに関しては,現在も議論が続いている。この問題を解決するにはワクチンによる感染防御のメカニズムを考える必要がある。
HBVが血液を介して体内に侵入した場合,血中にHBs抗体があれば,HBs抗体はHBVの表面に付着して肝細胞への感染を防止する。HBs抗体で覆われたHBVはマクロファージのFc受容体を介して,マクロファージに貪食,分解される。
したがって血中に十分量のHBs抗体がない場合は,肝細胞へのHBVの感染が成立することになる。HBVによるブースター効果は2~4週間を要するため,感染の防止には役立たない。
肝細胞に侵入したHBVは肝細胞内で増殖し,ウイルスの複製が起こる。しかしながら肝細胞から血中に放出されるHBVが血中に存在するHBs抗体と結合し,未感染肝細胞への感染効率が低下するため,顕性の肝炎を発症する可能性はきわめて低いと考えられる。
この仮説を裏付ける論文が本年はじめに米国から発表された(図)4)。

米国はGenotype A2 HBV株由来のワクチンを用いてユニバーサルワクチネーション(国民全員がワクチン接種を受けること)を行っているが,ワクチン接種歴のある献血者6名がHBV DNA陽性であった。このうち感染経路が判明したのは4名で,いずれもワクチン未接種のHBVキャリアのパートナーから感染していた。この4名(GenotypeはA2 1名,B2 1名,C2 1名,F1 1名)の臨床経過がまとめられているが,3名ではIgM-HBc抗体が陽転している。したがってHBVワクチンでHBs抗体が陽転化しても,ワクチン株と同一のGenotypeを含めHBVの感染を完全には防御できないことがわかる。しかしながら,どの例でもALTには全く変動が認められず,肝炎は発症していない。血中HBV DNAも100,000コピー/mLまでと,ワクチン未接種者に比べ1,000分の1以下に抑えられていた。
このようにHBVワクチンを接種することでB型肝炎の発症を防ぐことはできるが,感染は防止できない場合がある。HBVの感染そのものを防御するためにはHBVワクチンの追加接種でHBs抗体価値を上げておくか,HBVへの曝露があった際にHB免疫グロブリン(HBIG)を接種する必要がある。
ブースターに関しては,これまでは「ブースターを行わなくとも肝炎を発症することはないので効果がない」という理由から,ワクチンの追加接種は推奨されてこなかった5)6)。しかしながら,一過性感染治癒後の状態から肝炎を発症するde novo肝炎が今後抗体製剤の開発などによりますます増えることが予想される。ハイリスク群(透析患者,免疫不全患者,不特定多数との性交渉をもつ者,血液へ直接曝露する医療従事者などが考えられる)に対しては,ブースター接種を行うことを考えてもよいのではないだろうか。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。