肝炎治療;最近の進歩
B型肝炎をいかに治療するか
Pharma Medica Vol.29 No.10, 33-36, 2011
はじめに
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)感染のインパクトは強く,世界人口の1/3(22億人)はHBVに感染したことがある。このうち,3億5千万人がキャリアであり,この75%が東南アジアおよび西太平洋地域に在住する。一方,わが国でのHBVキャリアは約130~150万人と推定されている。
HBVキャリアは,無症候性キャリア,慢性肝炎,肝硬変,肝発癌,急性増悪,再活性化などの多彩な病態を示す。このため,B型肝炎の診療では,その自然経過を理解し,病態を把握したうえで治療方針を立てる必要がある。本稿では,自然経過を基にした治療対象の選択,治療目標の設定,抗ウイルス療法の特徴とその使い分けなどについて述べる。
KEY WORDS
●抗ウイルス療法 ●インターフェロン ●核酸アナログ薬 ●ウイルス量
Ⅰ.HBVキャリアの病期と自然経過
HBVキャリアの経過は,ALT値,HBe抗原,HBV DNA量,予測される免疫状態などから,これを病期に分けることが可能である。これらの病期はウイルス増殖と免疫応答の関係で変化し,また患者ごとにその経過が異なるため,B型肝炎の臨床ではこれらを十分理解しておく必要がある。表1に代表的な病期分類の1つを示した1)。

免疫寛容期ではHBV増殖は活発であるがALT値は正常で,組織学的にも正常か軽度の炎症にとどまる。周産期にHBVに感染した場合,免疫寛容期は思春期~若年成人まで続くことが多い。宿主の免疫はHBVを非自己とは認識せず,これを排除しようとしていないと考えられるので,この時期は免疫寛容期と呼ばれる。
HBe抗原陽性の慢性肝炎では,HBV排除に働く宿主の免疫反応が起こり肝炎が惹起される。HBe抗原陽性の慢性肝炎が長期に続くと肝硬変へ進行するが,多くの患者ではHBe抗体へセロコンバージョンし非活動性キャリアとなる。
HBe抗原陰性になると総じて予後がよいと考えられていた。しかし,最近,逆に予後が悪い病態が報告され,重要な病期の1つとして分類されている。このHBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原が抗体へセロコンバージョンしてもHBV DNA量が十分低下せず慢性肝炎が持続する場合や,いったん非活動性キャリアとなった後に肝炎の再活性化が起こる場合がある。特徴としては,HBV DNA量は中等度の範囲で変動し,間欠的に激しい肝炎を起こす傾向がある。また,この肝炎はHBe抗原非産生変異株により惹起され,肝硬変や肝癌へ進行しやすいことが報告されている。
非活動性キャリア期ではHBVに対する宿主の免疫が優位になり,HBVの増殖は持続的に低下する。この結果,肝炎は沈静化し肝発癌率も低いので予後はよいと考えられている。しかし,自然経過または宿主の免疫抑制によりB型肝炎の再活性化がみられることがあるので,経過観察は必要である。
非活動性キャリア期を経過した後,一部ではHBs抗原が陰性化し,回復期となる。この時期は肝炎はなく,肝発癌率も低いとされている。しかし,高齢者や肝硬変のHBs抗原消失例では,肝発癌に対する注意が必要である。また,HBs抗原は陰性化しても肝細胞の核内にcccDNAの形でHBVが残存するので,HBVが完全に排除されたことにはならない。
記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。
M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。