認知症の有病率は高齢化に伴い増加の一途をたどり,本邦における認知症患者数は2022年に約443万人,軽度認知障害の高齢者数は約559万人と推計され,その合計は1,000万人を超えている1)。認知症の症状は,記憶障害や見当識障害などの中核症状と,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)に大別される。BPSDは,認知症患者の約60~90%がその経過中に何らかの症状を経験するとされ,幻覚・妄想,易刺激性・焦燥性興奮,不安・抑うつ,アパシー,睡眠障害など,多彩な症状を呈する2)。BPSDの出現や悪化は,患者本人の尊厳を損ない,苦痛を増大させるだけでなく,介護者の負担を著しく増大させ,経済的コストの増加,施設入所の早期化,そして患者・介護者双方のquality of life(QOL)の深刻な低下に直結する3)。したがって,BPSDへの適切な対応は,認知症ケアにおける喫緊の課題である。