新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)が世界的流行を引き起こしてから,既に1年半が経過した.2021年9月14日現在,感染者報告総数は,2億2,500万人,死者総数は463万人を超えている1).また,本疾患の感染予防,重症化予防に資するとされるワクチンも開発され,わが国を含む多くのワクチン接種先進諸国において,2021年9月には接種率が50%以上となった.これらの国々においては,接種率の上昇に伴い,本感染症の重症化率ならびに死亡率の減少がみられる一方,行動制限の緩和により,新規感染患者の増加もみられている2)
世界各地に拡散した新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus type 2:SARS-CoV-2)は,感染を重ねながら主要抗原のS蛋白も変異を重ね進化し続けている3).現在,S蛋白に特有のアミノ酸置換がみられる変異株(variant)が地域流行あるいは世界的な流行に関与しており,これらの今後の動向を注視する必要がある.また,変異株に対する既存のワクチンの効果に対する科学的知見が集積しつつある.このような背景から,本稿においては,当該ウイルスS蛋白の分子進化と現行ワクチン(mRNAワクチン)の効果に関する最新知見について概説する.