代謝は,生体活動に欠かせないエネルギー産生や生体構成に必要な有機物の合成のみならず,エピゲノム修飾による遺伝子発現を制御し細胞の分化・増殖に寄与する。癌細胞におけるエネルギー産生は,主として解糖系を利用しており,この代謝異常はWarburg効果として古くから知られていたものの,原因や意義については不明であった1)。しかしながら,近年のメタボロミクス測定技術の向上により,癌細胞における代謝特性が解明されてきている2)。それにより,癌組織における代謝酵素の遺伝子変異や発現異常などが確認され,癌の発生・進展・維持に代謝が深く関わっていることが明らかとなった。さらには,癌特異的な代謝経路や癌の維持に必須な代謝酵素が解明され,創薬標的の新しい領域として注目されている。
一方で,非タキサン系の微小管阻害薬であるエリブリンは,従来のチュブリン阻害薬としての殺細胞作用に加え,上皮間葉移行(epithelial to mesenchymal transition;EMT)抑制作用など腫瘍微小環境を調整する薬剤特性を有する可能性が報告されている3)-6)。この腫瘍微小環境調整作用により,エリブリンは国際第Ⅲ相試験でも全生存期間(OS)を延長するような長い治療効果が示されたのではないかと考えられている7)
腫瘍微小環境における代謝競合は,不均一性や可塑性など複雑な代謝機構の理解を要する。それゆえ腫瘍微小環境調整作用を有するエリブリンが,癌組織の代謝競合にどのような影響を及ぼすのかは,興味深いところである。本稿では,メタボロミクスによって検証されたエリブリン特異的薬剤特性について解説する。