Culture in Psychiatry
安部公房の『(霊媒の話より)題未定』
掲載誌
精神科臨床 Legato
Vol.10 No.3 64-65,
2024
著者名
高橋 正雄
記事体裁
抄録
/
連載
/
コラム
疾患領域
精神疾患
診療科目
心療内科
/
精神科
媒体
精神科臨床 Legato
1943(昭和18)年,19歳の安部公房(1924~1993年)によって書かれた生前未発表の処女作『(霊媒の話より)題未定』(新潮社)には,幻聴に悩まされる少年の姿が描かれている。
この作品の主人公の少年は,親の名前も生い立ちも不明なまま,5歳の頃から孤児として曲馬団で育てられた少年である。少年は,体は弱いながらも,「純粋な気持と誇りを失わず」,「上品な面持や物静か」な雰囲気もあったために女将に気に入られ,曲馬団の雑務をしたり得意の物まねをしたりしながら,曲馬団の一員として田舎町や村々を巡っていたのである。
ところが18歳のとき,ある町で家族連れの客を見た彼は,根拠もなくこの親子こそ自分の家族ではないかと思うようになる。そのため彼は,それまで世話になった曲馬団を無断で抜け出して,件の家族を探しはじめた。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。