注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)の診断は過去数十年間で大幅に増加しており,小児,成人を問わずADHD治療薬の処方が増加しています1)。ADHD治療薬の有効性については複数のランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)で報告されていますが,一方でADHD治療薬の使用と心拍数・血圧の上昇との関連性についてRCTのメタ解析で報告されており2),その長期使用が心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)に及ぼす影響に関しては依然として懸念が残ります。

ADHD治療薬と重篤なCVDアウトカムとの関連性について検討した観察研究の結果は一致しておらず3,4),観察研究のメタ解析でもADHDの治療薬とCVDリスクとの間に統計的に有意な関連性は見出されていません5)。ただし,これらの研究のほとんどは平均追跡期間が2年以内のものが多く,ADHD治療薬の使用による長期的な心血管リスクに関する結論はこの時点では出ていなかったといえるでしょう。

今回取り上げる論文は,スウェーデンの患者レジストリと処方薬レジストリを利用して「ADHD治療薬の累積使用期間が長くなるほど,CVDリスクが上昇する」という仮説を,nested case control studyで検討しています6)