1832年にシャルル・ノディエ(1780~1844年)が発表した『青靴下のジャン=フランソワ』1)には,「1793年にブザンソンには一人の白痴というか,偏執狂というか,狂人というか,そんなものがいた」という一文があるように,フランス革命の頃,フランスの片田舎に住んでいた統合失調症を思わせる20代半ばの青年が描かれている。

この作品の主人公ジャン=フランソワはれっきとした仕立屋の息子で,周囲の人々がいずれは司教にでもなるのではないかと考えていたほど優秀な子供だった。彼はどの学年でも賞をとり,市長も「彼に褒賞を与えるのにくたびれてしまうくらいでしたよ。それも実に多方面にわたっていましてね,それだけ立派なものでした」と,その才能を次のように褒めたたえた。「どんな知性の領域でもなんなく開かれてしまうように見えたものです。彼が最後に操行と,青年の模範となる徳行の賞を受けに来たときには,講堂が拍手喝采の響きでいまにも崩れそうなくらいでした」「彼のような息子がいたらと思わない親はいなかったでしょうし,彼を婿にとれたらと思う金持ちも少なくなかったでしょう」