わが国においては1981年以降,悪性腫瘍が死因の第1位となっており,死因全体に占める割合は経時的に増加し,現在全死因の約30%を占めている1)。また,1997年以降死因の第2位は心血管疾患であり,全死因の約15%を占めており,悪性腫瘍と心血管疾患だけでわが国の死因のおよそ半分になる1)。高齢者においては両疾患が合併することも多く,米国ではがん患者の18%が心血管疾患を合併していることが報告されている2)。しかし,これは頻度が高い両疾患が確率論的に合併するのではなく,がんあるいはその治療により心血管疾患が惹起されることによる。実際,Sakamotoらはコホート研究において慢性心不全患者におけるがんの罹患率は全国集計と比較して有意に高いこと(2.27% vs. 0.59%,p<0.0001,95%信頼区間(CI)1.89~2.71)を報告しており,その半数はがんと診断された後に慢性心不全と診断されていた3)。このように,心血管疾患をもつ患者においてがん発症リスクが高いことは数多く報告されている。また,逆にがん治療に使われる薬剤によって高血圧,心機能低下,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE),虚血性心疾患,肺高血圧症など,さまざまな循環器疾患が惹起される。また,がん治療終了直後には心血管疾患が認められなかった患者でも,がん治療後の長期フォローで心血管疾患の発症リスクが高くなることにも注意が必要である。がん治療を行うにあたっては,もともと罹患している心血管疾患や抗がん剤による心血管疾患発症のリスクを把握して治療やフォローを進めていくことが今後さらに重要になる。
本稿では,心血管疾患のなかでも主に心不全とがんに共通するリスクファクターについてがん種による違いも含めて解説し,またがん治療に伴う心血管疾患についても解説する。