2015年に米国心臓協会の機関誌「Journal of the American Heart Association」に掲載された「これからの心房細動患者の抗凝固療法の標的は脳卒中よりも認知機能である(Cognitive Function: Is There More to Anticoagulation in Atrial Fibrillation Than Stroke?)」と題した総説1)では,心房細動を有する高齢者は心房細動を有しない群と比較して認知機能低下をきたす比率が高いことに注目して,臨床的に脳卒中イベントを起こさないようないわゆる無症候性脳梗塞が認知機能低下を引き起こす可能性が高いことから,心房細動患者における抗凝固療法の重要性について解説している。

心房細動は,心原性脳塞栓症に起因する脳卒中後認知症に加えて,うっ血性心不全や徐脈による低灌流,臨床的にイベントを起こさないような微小梗塞の蓄積や白質病変,高齢者ではアルツハイマー病の病理の併存,ワルファリン療法に伴う脳出血やビタミンK欠乏症による影響など,認知症のリスクが高い(図1)。また,認知機能低下はワルファリンのきめ細かなコントロールを困難にして心原性脳塞栓症のリスクを高める。こうしたなかで,出血性合併症やビタミンK欠乏症などのワルファリン療法の欠点を補う直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は認知症予防の観点からもその効果が期待されている。

本稿では,心房細動患者における抗凝固療法と認知症について概説する。