「SUMMARY」人工多能性幹細胞(iPS細胞)は多能性や自己複製能を有することから,細胞移植による再生医療への応用が期待されている。さらに,疾患特異的iPS細胞を用いた病態解明や治療薬のスクリーニングなど,その多様な有用性が示されている。一方で,がん研究分野においても細胞リプログラミング技術の応用が始まっており,がん細胞の性質理解のため,従来とは異なった新たなアプローチでのがん研究が進行中である。がん細胞の発生や維持に関して,がん細胞に特徴的なエピゲノム状態の寄与が示唆されている。エピゲノム状態を大きく変化させることが可能な細胞リプログラミング技術をがん研究に応用することで,発がんにおけるエピゲノム制御の意義が明らかになりつつある。本稿では,細胞のエピゲノム状態を大きく改変し,ダイナミックに分化状態を変化させうる細胞リプログラミングの概念,またiPS細胞作製技術に基づいたがん研究の現状と,今後の展望を紹介する。
「KEY WORDS」がんエピゲノム,人工多能性幹細胞,生体内初期化,エピゲノム発がん