骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse:POP)は,骨盤底臓器の支持を失うことで発症する骨盤底のヘルニアである.骨盤底に位置する膀胱,尿道,子宮,腟,直腸,肛門はそれぞれ独立して支持されているのではなく,互いに関連しあって位置が固定されている.骨盤底筋(肛門挙筋)で直腸と肛門は90度に折れ曲がり,腟の角度も緩やかに曲がって水平に近づく.腟の軸は下部3分の1と上部3分の2は傾きが異なり,尿道と腟管下部3分の1は立位で垂直に近い軸であるが,腟管上部3分の2と直腸はほぼ水平である.また,尿道,外腟口,直腸下部,肛門は骨盤底筋を貫き,肛門挙筋がU字にスリング上に取り囲んで恥骨結合方向に固定される1).分娩などによって骨盤底筋群や支持筋膜が損傷を受けると肛門挙筋プレートがたるみ,肛門挙筋裂孔(生殖裂孔)が開大して腟の軸が縦方向に近づき,POPが発症すると考えられる.経腟分娩は膀胱圧迫,腟壁,恥頸筋膜,直腸腟中隔,肛門挙筋の伸展と断裂,陰部神経管の圧迫などさまざまな物理的傷害を支持組織に引き起こす.神経管の長時間の強い圧迫による神経障害は,支配領域の骨盤底筋群の脆弱化を起こす.生殖年齢期には豊富なエストロゲンによって骨盤底筋群は互いに補完しあって骨盤内臓器の支持を保っているが,エストロゲンが低下し始めると骨盤底筋の下垂,肛門挙筋裂孔の開大とともに骨盤臓器の支持が失われて,骨盤底臓器が腟壁とともに下垂・脱出するヘルニア状態となる.
Know-how 女性の健康に関するベーシック
骨盤臓器脱(POP)
掲載誌
WHITE
Vol.8 No.1 49-55,
2021
著者名
古山 将康
記事体裁
連載
/
抄録
疾患領域
骨・関節
診療科目
老年科
/
整形外科
/
産婦人科
媒体
WHITE
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。