加齢に伴う身体の変化において,脂肪量の増加と筋量の低下が最も特徴的である.例えば,体重は若年者50.0kg,高齢者50.0kgと同じでも,体脂肪率が若年者20.0%,高齢者30.0%だと,体に占める筋肉量は若年者40.0kg,高齢者35.0kgとなる.健康を維持するためには,体重維持よりも筋量の維持がより大切と言われる理由である.筆者は,20~88歳男女213名(男性79名,女性134名)を対象にDual energy X-ray absorptiometry(DXA)法より求めた筋量の年代間の比較を行ったところ,全身の筋量は男女ともに20歳代に最大値を,80歳代に最低値を示し,男性で平均29.5%,女性で23.6%少ないことを明らかにした.さらに,筋量を部位ごとに比較した結果,足の筋量は男性37.1%,女性29.1%少ないことから,特に足の筋量が他の部位より顕著に減少することを突き止め,昔から「老いは足から」との話の裏付けになるデータである.一方,足の筋量は男性60歳代から,女性50歳代から減少が加速する傾向を示し,女性は50歳代以前から筋肉づくりが必要であると強調した(図1)1).
骨量が減少すると筋質を表す筋力低下をもたらし,特に下肢筋力の衰えは歩行機能を著しく低下させ,ひいては転倒・骨折の原因となるなど,高齢者の健康維持を考える上で,極めて重要な問題である.
筋量の減少には,加齢,慢性疾患,骨格筋の不使用,栄養不良などのさまざまな要因が複雑に関わっているが,そのメカニズムの完全解明までには至っていないのが現状である.骨格筋量の減少に伴う筋力の衰えや身体機能の低下予防のためには,さまざまな危険要因の中で,可変因子を見い出し,その因子の改善に焦点を当てる支援が有効である.可変因子として注目されているのは,骨格筋の不使用と栄養不良である2).
骨格筋の不使用を解消する手法としては運動が勧められ,高齢者においても,漸増負荷レジスタンス運動(progressive resistance strength training:RT)の実践によって,筋量や筋力の増大効果を多くの研究で検証している3, 4).栄養不良の対策としては,タンパク質,beta-hydroxy-beta-methylbutyrate(HMB),茶カテキン,ビタミンD,オメガ3脂肪酸,乳脂肪球皮膜,必須アミノ酸の補充を勧めている.筋量・筋力の低下予防のためには,運動実践の単独あるいは栄養補充の単独よりは,運動に栄養補充を加える複合的な取り組みがより効果的であるとの見解が優勢である.本稿では,筋量・筋力アップに対する運動単独,栄養単独,運動+栄養の効果と課題について概説する.