1型糖尿病は,膵 β 細胞が破壊され内因性のインスリン分泌が損なわれる疾患である。インスリン注射療法が必要であるが,それでも膵 β 細胞が有する精密な血糖調節能を模倣することは困難であり,低血糖や高血糖を頻回に生じる症例も少なくない。その解決策として膵臓・膵島移植療法があるが,ドナー不足等の問題があり,広く普及するには至っていない。そこで,ヒト多能性幹細胞(human pluripotent stem cell;hPSC)を用いた再生医療が期待されている。

近年,本論文の著者らを含め,いくつかのグループがin vitroでhPSCから膵 β 様細胞を作製したことを報告している1)-3)。しかし,これらの細胞はある程度のグルコース応答能を認めるものの,インスリン分泌が欠如または遅延したり,グルコース除去後もCa²⁺流入が抑制されなかったりといった問題があり,完全に成熟した膵 β 細胞機能を有しているとはいえない。

ヒト膵発生において内分泌細胞は,最初は膵上皮に点在しているが,その後それらが凝集してクラスターとなり,膵島を形成していく。その過程で,内分泌細胞は機能的な成熟性を獲得する。現行のin vitroでのhPSC分化誘導プロトコールは効率がいまだ不十分で,培養した内分泌細胞のクラスターには未分化な膵前駆細胞が混在しているため,それが原因で機能的な成熟が得られない可能性が考えられる。

そこで著者らは,hPSCから作製した未熟な内分泌細胞クラスターから膵 β 様細胞を単離し,濃縮膵 β 細胞クラスター(enriched β -cluster;eBC)へと再凝集させた。得られたeBCは機能的に成熟し,ミトコンドリアの酸化的リン酸化の促進を認めた。トランスクリプトーム,生理学的および機能的分析において,eBCはヒト膵 β 細胞に類似していた。

以上より,内分泌細胞のクラスター化がhPSC由来膵 β 様細胞の成熟において重要であることが示された。