下垂体後葉から血中に放出されるバソプレシン(arginine vasopressin;AVP)は抗利尿ホルモン(anti-diuretic hormone;ADH)とも呼ばれ,強力な血管収縮作用だけでなく腎尿細管での水再吸収を調節するホルモンとして知られている。AVPおよびAVP受容体作動薬は,尿崩症や消化管出血などの治療薬としてすでに臨床で使用されている。AVPによるその他の新しい治療法として,心機能低下時に起こる低血圧に対してAVPの昇圧効果が有効であるとの研究成果が報告されている。さらに,心不全に伴う低Na血症やレイノー病(Raynaud's disease)におけるAVP受容体拮抗薬による血管収縮抑制効果についても臨床開発が進められている。われわれは,3種類のAVP受容体(V1a,V1b,V2)のなかでV1aおよびV1b受容体について遺伝子欠損マウスを作製し,これらの受容体を介するAVPの生理作用について解析を行っている。その機能解析により,これまでにV1a受容体による血圧調節の新たな仕組みの一端が明らかになってきている。本稿では,V1a受容体欠損マウスを用いた解析を中心に,AVPによる血圧調節機構について概説する。