蛋白漏出性胃腸症は,その名の通り消化管から血漿蛋白質が漏出し,低蛋白血症を来してさまざまな臨床症状を呈する病態である。蛋白漏出性胃腸症の原因は薬剤性から各種感染症まで多岐にわたる。HIV感染症とその合併症である日和見感染症が鑑別疾患に挙げられる。なかでも非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria;NTM)は肺,リンパ節,消化管など全身に播種性病変を形成し,蛋白漏出性胃腸症を発症させる可能性がある。播種性NTM症を合併したHIV感染者において,蛋白漏出性胃腸症を発症した症例は非常に稀であるが,過去に数例報告されている1)-4)。しかし,このような症例においてHIVとNTMに対して有効な治療を行ったとしても,蛋白漏出性胃腸症を背景として腸リンパ管拡張症を併発し,腸管からリンパ液流出のためCD4+T細胞数の改善がみられず,治療に難渋する場合が多い。
本稿では,播種性NTM症を合併したHIV感染症に対して治療開始後に免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome;IRIS)を発症し,その数年後に蛋白漏出性胃腸症を発症した事例に考察を加えて報告する。