【症例】
40歳代,男性。
主訴:一過性片麻痺。
現病歴:受診15年前にHIV感染症の診断となり,抗レトロウイルス療法(antiretroviral therapy;ART)が導入されていた。5年前より治療中断を繰り返し,以降受診が途切れていた。受診当日,職場で一過性左下肢麻痺が出現し,当院を緊急受診した。
既往歴:潰瘍性大腸炎(24歳時診断,現在は寛解状態)。
身体所見:体温 36.1度,血圧130/80mmHg,脈拍 65回/分,呼吸数 16回/分,SpO₂ 96%(室内気)だった。意識清明,全身リンパ節腫脹なし,胸部腹部に異常所見なし。項部硬直,ケルニッヒ徴候なし。
検査所見:<血算> 白血球数 3,380/μL,Hb 11.1g/dL,MCV 64.1,血小板数 20.2万/μL。
<生化学> AST 26U/L,ALT 20U/L,LDH 194U/L,ALP 94U/L,γ-GTP 27U/L,総ビリルビン 1.5mg/dL,BUN 13mg/dL,クレアチニン 0.94mg/dL,空腹時血糖 76mg/dL,ナトリウム 139mEq/L,カリウム 3.5mEq/L,クロール 105mEq/L,カルシウム 8.7mEq/L,CRP 0.1mg/dL,sIL-2R 754U/mL。
<感染症> TPHA(-),RPR(-),HBs抗原(-),HBs抗体(-),HBc抗体(-),HCV抗体(-),結核IFN-γ陰性,アスペルギルス抗原 0.1,CMV C10-112個,トキソプラズマIgG 46.4IU/mL,トキソプラズマIgM 0.15S/CO,クリプトコッカス抗原陽性。
<HIV> HIV抗原/抗体(+)。CD4⁺細胞数 36/μL,HIV RNA 230,000copies/mL。
<髄液検査> 糖定量 63mg/dL,蛋白定量 41.2mg/dL,WBC 0/μL,RBC 0/μL,トキソプラズマPCR陰性,クリプトコッカス抗原陰性,網羅的ウイルス解析陰性,Gracott染色,墨汁染色陰性。
入院後経過:患者はコントロール不良のHIV感染症であり,頭部および肺野に複数病変を認めた。診断的治療を行ったが軽快せず,脳生検を実施した。