HIV感染症の治療の進歩は著しく,現在では適切に治療を受けているHIV陽性者の余命は非感染者のそれと大差なく,HIV感染症は文字通り慢性疾患となった。さらに,抗レトロウイルス療法(anti-retroviral therapy;ART)の服薬アドヒアランスに問題がなく,血中ウイルス量が検出感度(200 copies/mL)未満を6ヵ月以上継続でき,他の性感染症がなければ,性的パートナーに性行為でもHIVが感染しないという複数の大規模臨床研究の結果が報告された。この科学的事実から,「U=U(Undetectable=Untransmittable)」プロジェクトが,HIV陽性者の人権問題との視点からも世界中で展開されている。
1981年に米国から原因不明の免疫不全症(後に後天性免疫不全症候群〔acquired immunodeficiency syndrome;AIDS〕と命名)が報告され,病原体としてHIVが1983年に発見された。1985年にはHIVに対する抗体検査が承認され,同年,満屋裕明博士らが米国国立癌研究所で世界初の抗HIV薬ジドブジンを報告し,抗HIV療法が現実となった。その後も,抗HIV薬と治療法の開発が続けられた。1996年の第11回国際エイズ会議で,新たなクラスであるプロテアーゼ阻害剤(protease inhibitor;はじめにPI)を当時の標準治療であった核酸系逆転写酵素阻害剤(nucleosidereverse transcripatse inhibitor;NRTI)2剤に加えた3剤併用療法による画期的な抗ウイルス効果が,RT-PCR法によるHIV-1のウイルス量の半定量という新しい検査法で示された。それらの成果を基に,抗HIV療法のガイドラインが同会議で発表された。当時,カクテル療法あるいは高活性抗レトロウイルス剤療法(highly active anti-retroviral therapy;HAART)と呼ばれた多剤併用療法は,やがてARTと呼ばれるようになったが,治療の本質は今も変わっていない。1997年11月には米国保健福祉省(Department of Health and Human Services;DHHS)らによる「成人および青少年HIV-1感染者における抗レトロウイルス薬の使用に関するガイドライン(以下,DHHSガイドライン)」が作成され,ホームページに提示された1)。DHHSガイドラインは抗HIV療法の進歩とともに,毎年のように改訂されてきた。本項では今回の改訂ガイドラインのポイントに焦点を絞って概説する。一部意訳した部分があることをご了承頂きたい。