米国では,2015年の新規感染者のうち82%を占める高リスクグループは,男性同士の性行為感染である2)。現在,既に多くのHIV予防施策が男性間性交渉者(men who have sex with men;MSM)に対して行われており,それらは行動戦略(コンドームの使用,禁欲・節制など)と薬物療法戦略(曝露前予防[pre-exposure prophylaxis;PrEP]薬,曝露後予防[post-exposure prophylaxis;PEP]薬,予防としての治療など)に大別される。行動戦略としてMSMをターゲットにコンドームの使用を推奨しているが,MSMの25~28%しか使用していない,と報告されている3)。薬物療法戦略の予防としての治療(Treatment as Prevention;TasP)は,陽性者のウイルス量を検出限界未満に抑制することで,他者への伝播を最小限にする。HPTN052試験において陽性パートナーのウイルス量を抑制することで,陰性パートナーへの感染伝播を96%抑制したことが示された4)。しかし,こういった予防戦略が行われていても,米国での男性同士の性行為感染による感染率は,2010年から2014年まで変わっていない。2012年7月,食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)によりPrEP薬としてエムトリシタビン/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩の使用が承認された。FDAの承認後しばらくして世界保健機関(World Health Organization;WHO)と疾病管理予防センター(Center for Disease Control;CDC)は,コンドームの使用や禁欲・節制,パートナーを特定すること,TasPなどの予防戦略とともに,高リスクのMSMに対してPrEP薬を推奨した。2015年のMMWRの報告では5),米国の18~59歳のHIV未感染MSMで,過去1年間に少なくとも1人以上のセクシャルパートナーがいる者のうち24.7%は,過去1年の間に2人以上のセクシャルパートナーがいて,コンドーム未使用の性行為がある,または/かつ性行為感染症の診断を受けていた。そのため,彼らはPrEPの適応とされた。これらさまざまな予防戦略がMSMに対して行われているが,個々の戦略を併用したときの有効性を検証する必要がある。われわれは,既に確立された予防戦略との併用においてPrEPが広く採用されることのインパクトについて,ハイリスクのMSM集団におけるHIVの発生をシミュレーションして評価した。
RELATED ARTICLES
コンドームの使用や予防としての治療を受ける,あるいは感染を軽減する性行動(禁欲・節制)をとるMSMにおけるHIV感染曝露前予防(PrEP)の効果
掲載誌
HIV感染症とAIDSの治療
Vol.9 No.2 50-53,
2018
著者名
藤井輝久
記事体裁
連載
/
抄録
疾患領域
アレルギー・免疫
/
感染症
診療科目
その他
媒体
HIV感染症とAIDSの治療
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。