HIV感染症はzero transmissionを目指すべき疾患だが,現実は異なっている。2013年の世界人口は73億人と推定されているが,国連合同エイズ計画(UNAIDS)のデータでは2013年のHIV感染者は3,500万人であり(単純計算では0.48%),2016年の推定値は3,670万人である。米国疾病予防管理センター(CDC)の報告では2015年時点での米国HIV感染者数は120万人以上と推定されている。本邦では2015年時点で累積25,995人(死亡例を含む)と報告されている。現在では,世界も日本もHIV感染症を日常世界の1側面として生活しているのが現実である。人間が生物である以上,性的活動への欲求と挙児希望はきわめて普遍的な事項である。しかし,本邦においてはHIV感染者の挙児希望へのアプローチは多剤併用療法(ART)の到来とその意味を現実的に提示したHPTN052試験以前から進展していない印象がある。背景には挙児希望において両親から希望される「高い安全性の担保」に耐え得る科学的データが不足していることがあると考えられる。
今回のQ&Aは「普通化したHIV感染症」と「強力化した抗HIV療法」が当然となった本邦において,serodiscordant couple(特に男性HIV陽性・女性HIV陰性)の挙児希望への考え方を3人の経験ある先生方に整理していただいた。