ILCA 2019は2019年9月20日から22日までシカゴのマリオットホテルで開催された(写真1写真2写真3)。毎年同様であるが,前日の9月19日にはPre-Conference Workshopが開かれ,“Metabolism and liver cancer: From mechanism to treatment”というテーマで充実した内容でのワークショップが開催された。また,20日からの本会では3題のLate-breaking abstractを含む34題の口頭演題と,225題のポスター演題が発表された。


まず,ILCA Symposium 1では,“The cell of origin of liver cancer”というタイトルで,ドイツのLars Zender教授より“Hepatocytes, cholangiocytes, stem cells, etc. Who to blame for liver cancer development?”という講演が行われた。また,米国のAnuradha Budhu教授も“Cell of origin in human samples: Lessons from genomic studies”というタイトルで,basicな研究からの肝細胞癌あるいは胆管細胞癌,混合型肝癌の発生についての講演が行われた。

ILCA Symposium 2では,“Peri hilar cholangiocarcinoma”というタイトルで切除のための患者選択について名古屋大学の梛野正人先生からの講演,“Resection or transplantation for cholangiocarcinoma”というタイトルで米国のJulie Heimbach医師からの講演,および“Histological and Morphological Heterogeneity of Biliary Stenosis”というタイトルでノルウェーのKristen Muri Boberg教授からの講演が行われた。

またState-of-the-Art Lecture 1では,米国のMelinda Bachini教授から“The patient perspective on cancer treatment”というタイトルで講演が行われた。その他,EASL SymposiumやAASLDとのJoint Symposiumが行われた。





恒例のILCA Single Topic Workshopsでは4つのテーマが取り上げられた。1つ目は“Molecular diversity in HCC”,2つ目は“How to sequence treatment”ということで分子標的薬のsequential治療についてのdiscussionが行われた。3つ目のテーマとして,“Transplantation for cholangiocarcinoma”についてdiscussionが行われた。4つ目は,loco-regional therapyとsystemic therapyの画像による治療効果判定についてのdiscussionが行われた。この4つのdiscussionは同時並行で4つの部屋を使って行われた。

General SessionならびにPresidential Sessionでは興味深い発表が多数行われたが,特にOral Sessionで興味深いものをいくつかピックアップさせていただく。

1つ目はRichard S. Finn教授による“Results of a phase 3 study of pembrolizumab versus best supportive care for second-line therapy in advanced hepatocellular carcinoma: KEYNOTE-240”の発表である。

KEYNOTE-240試験は欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表されたnegative studyであるが,ILCAでもアンコール発表がなされた。これはPhase Ⅰ/Ⅱ KEYNOTE-224試験ですでに米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けたペムブロリズマブのphase Ⅲ試験の結果であるが,413例を2対1でペムブロリズマブとプラセボにランダム化割り付けして,全生存期間(OS)を比較する試験である。

統計学的にはprimary endpointがOSと無増悪生存期間(PFS)のco-primaryの2つに設定したため,αがPFSに0.002,OSに0.0023と割り振られた。さらに2回の中間解析が行われたため,その分だけαを消費してしまい,最終解析でOSの有効性を示すにはp値が0.0174を下回らないといけないというデザインであった。またPFSでは,1回目の中間解析でp値が0.0020を下回らないといけないというデザインであったが,結果的にOSはハザード比(HR)が0.781,p値は0.0238ということで,あらかじめ規定されたp値である0.0174を下回ることができなかった。すなわち,明らかにp値もHRも一般的にはプラセボよりも優れているということがいえるが,統計学的にはnegativeな結果(clinically meaningful but statistically not significant)であった。

Median OSはペムブロリズマブ群13.9ヵ月(95%CI:11.6-16.0),プラセボ群10.6ヵ月(95%CI:8.3-13.5)という結果であった。サブグループ解析では,唯一ソラフェニブに対する不耐症例がペムブロリズマブ群で不良な結果であった。すなわち,ソラフェニブに対する不耐症例をRESORCE試験のように対象から外していれば,この臨床試験もpositiveであった可能性が高い。この試験においては,ペムブロリズマブもPFSは3.8ヵ月とプラセボ群の2.8ヵ月よりは優れるものの(HR 0.688, p=0.0011),決して長くない結果であった。また,ペムブロリズマブの奏効率は18.3%であった(オッズ比 13.8,p=0.00007,95%CI:7.0-18.5)。

次に興味深い発表としては,resectable HCCに対するネオアジュバントおよびアジュバントの臨床試験の結果がAhmed O. Kasebらによって発表された(Randomized, open-label, perioperative phase Ⅱ study evaluating nivolumab alone or nivolumab plus ipilimumab in patients with resectable HCC)。

予定症例数は30例であり,30例をArm AとArm Bに分け,Arm Aは15例ニボルマブ 240mgを投与,Arm Bはニボルマブ 240mgとイピリムマブ 1mg/kgを術前および術後に投与するというデザインであった。今回は中間解析であり14例のみの解析ではあるが,14例中5例にpathological CRが術後標本でみられたということであり,きわめて期待のもてる結果であったが,一方で壊死が全くみられない症例もあった。すなわち,効果のある症例と効果のない症例があるということは,進行癌における奏効率と同等と考えられる。効果のあった症例においては,癌のなかにCD8陽性細胞とTeffector/Treg比が術前に比べ術後のほうが上昇しているという結果であった。

結論としてpathological CRは14例中5例にみられた(29%)。また新たに判明した有害事象はみられなかった。

次に興味深い報告は,CheckMate 040 studyにおけるAnthony B. El-Khoueiry教授によって報告されたニボルマブとイピリムマブの併用治療の結果である[Safety profile of nivolumab(NIVO)plus ipilimumab(IPI)combination therapy in patients (pts)with advanced hepatocellular carcinoma (HCC)in the CheckMate 040 study]。

これはCheckMate 040というPhase Ⅰ b studyで,Arm Aがニボルマブ 1mg/kg,イピリムマブ 3mg/kgを3週ごとに4回投与する群,およびArm Bはニボルマブ 3mg/kg,イピリムマブ 1mg/kgを3週ごとに4回投与する群,Arm Cはニボルマブ 3mg/kgを2週間に1回投与し,イピリムマブ 1mg/kgを6週ごとに投与するというものであった。Arm A,Arm Bは4回の投与のみイピリムマブを併用し,その後はニボルマブ 240mgのflat doseを2週間に1回投与するというスケジュールで行われた。

その結果,response rateに関してはArm Aが32%,Arm Bが31%,Arm Cが31%と変わりはなかったが,OSに関してはArm Aが22.8ヵ月(95%CI:9.4-NE)と最も長く,Arm Bの12.5ヵ月(95%CI:7.6-16.4)やArm Cの12.7ヵ月(95%CI:7.6-16.4)と比べても長い傾向があったため,このArm Aの用法用量でPhase Ⅲの臨床試験に入ることになった。対照薬はソラフェニブかレンバチニブのどちらかのphysicians’ choiceである。

4つ目の興味深い発表は,Dr. Jordi Bruixによって行われたレゴラフェニブのAFPレスポンスの発表である(Alpha-fetoprotein response and outcomes in patients with unresectable hepatocellular carcinoma treated with regorafenib or placebo in the phase 3 RESORCE trial)。

今回の解析では,レゴラフェニブ群とプラセボ群を合わせた解析においてRESORCE trialでAFPレスポンスが得られた患者と得られていない患者についての予後の結果が比較されたが,RESORCE試験でAFPレスポンスがあった症例は84例,なかった症例は148例であり,Median OSはAFPレスポンスがあった症例は13.8ヵ月(95%CI:11.8-16.5),AFPレスポンスがなかった症例のOSは8.9ヵ月(95%CI:8.0-9.7)でHRは0.57(95%CI:0.40-0.82)と,有意にAFPレスポンスがあった群のOSが良好であったことが示された。

同様の結果が,CELESTIAL試験でも検討された[Alpha-fetoprotein(AFP)response and efficacy outcomes in the phase 3 CELESTIAL trial of cabozantinib versus placebo in advanced hepatocellular carcinoma (HCC)]が,CELESTIAL試験でベースラインAFPが20ng/mL以上であった症例は,カボザンチニブ群331例,プラセボ群160例であった。そのうち8週目でAFPレスポンスが評価できた症例が,カボザンチニブ群236例,プラセボ群111例であった。

その症例を比較した結果が示されたが,AFPレスポンスが得られた症例はカボサンチニブ群ではMedian OSがAFPレスポンス症例16.1ヵ月,AFPレスポンスがなかった症例は9.1ヵ月と,明らかにHR 0.61(95%CI:0.45-0.84)で有意にカボザンチニブによる予後延長効果がみられた。また,PFSについてもAFPレスポンスが得られた症例のPFSが7.3ヵ月,AFPレスポンスがなかった症例のPFSは4.0ヵ月,HRは0.55(95%CI:0.41-0.74)とその差は明らかであった。

カボザンチニブ群で多変量解析した結果も,OSについてはAFPレスポンス,ベースラインAFP,ECOG PSとMVIのありなしが有意な因子であった。PFSについてはAFPレスポンスとベースラインAFPのみが有意な因子であった。

また,アテゾリズマブ+ベバシズマブのPhase Ⅰb試験の結果がDr. Kyung-Hun Leeによって発表された (Phase Ib study results: safety and efficacy of atezolizumab + bevacizumab versus atezolizumab in patients with previously untreated, unresectable or advanced)。

この報告では,Arm Aすなわちアテゾリズマブ1,200mgを3週ごと,ベバシズマブ15mg/kg投与を3週ごとに行った単アーム試験の結果が報告されている。Independent reviewのRECIST 1.1の評価では36%の奏効率であり,12%がCRを達成したという結果が示された。またMedian OSは17.1ヵ月,PFSは7.3ヵ月と良好であった。

以上,簡単にGeneral SessionならびにPresidential SessionのTopicsについて解説した。

なお,会期中に写真4に示す東京大学名誉教授の幕内雅敏先生がILCAの栄誉あるNelson Fausto賞を受賞された。