キーワード

①肉腫様変化を伴う肝腫瘍

肉腫様成分を含む肝腫瘍は悪性度が高く,予後不良の病態である。今回,集学的治療を行い,臨床的に完全寛解を得られた貴重な症例を報告した。


②肉腫様変化を伴う肝腫瘍への集学的治療

予後不良疾患の治療方針決定は困難ではあるが,今回,肝動注化学療法および重粒子線治療にて臨床上完全寛解を得られた貴重な症例を報告した。


はじめに

肉腫様成分を有する肝腫瘍はまれかつ悪性度が高く,多くの報告でその転帰は不良である。標準治療もないうえ,外科的切除や肝移植を施行したとしても,3年生存率はそれぞれ18.2%,37.5%と,いずれも予後不良と報告されている1)

しかし今回,肝腫瘍生検にて肉腫様成分を含む門脈腫瘍塞栓合併肝腫瘍に対して,シスプラチン,リピオドール®,5-FUを用いた肝動注化学療法(New FP療法)と重粒子線治療を主体とした集学的治療を行い,臨床上CRが得られた症例を経験したため,報告する。


症例

70歳,男性。

60歳頃より糖尿病にて近医で経過観察されていた。2017年11月頃より胸部の違和感を認めたため,前医にて精査となった。腹部造影CTで肝右葉に約50mm大の肝内占拠性病変を指摘され,2018年4月に当科を紹介受診。当院での精査の結果,肝S5-8を主体に56mmの造影効果の乏しい腫瘍を認め,また腫瘍から連続する門脈右枝に浸潤する門脈腫瘍栓(Vp4)を認めた(図1-A)。精査加療目的で同年4月に入院となった。

既往歴:糖尿病,慢性閉塞性肺疾患(COPD)。

生活歴:喫煙;30年間で20本/日,現在禁煙。飲酒歴;機会飲酒。

治療経過:入院時血液検査ではAFP 12,781ng/mL,AFP-L3% 83.7%,DCP 238mAU/mLと上昇を認めていたが,腫瘍の造影patternが肝細胞癌(HCC)と異なっており,肝腫瘍生検を施行した。腫瘍生検にてHE染色(図2),また免疫染色では,AE1/AE3(-),Arginase1(-),Vimentin(+),S100(-),Desmin(-),c-kit(-),CD31(-),CD34(-),CD99(+)であり,確定診断に困難であったが,臨床所見ではAFP,DCPの上昇,門脈腫瘍栓を伴うことから,総合的に門脈腫瘍栓を伴うHCCの肉腫様変化と診断した。2018年4月よりリザーバー留置術を行い,New FP施行。治療継続にて同年7月には主結節は56mm→38mmへと縮小し,AFP,DCPも低下を認めていたが,門脈腫瘍栓は軽度増悪傾向であった(図1-B)。遠隔転移がないことを確認し,門脈腫瘍栓を中心に主結節も含めて同年8月に重粒子線治療を施行した。その後,主結節の増悪なく,さらに門脈腫瘍栓の退縮を認め,現在腫瘍マーカーも正常化しており,未治療にて13ヵ月増悪なく外来通院されている(図3,2019年9月)。





考察

この症例では,まず門脈腫瘍栓が予後を左右すると考えられた。門脈腫瘍栓は予後不良因子であり,未治療では3~4ヵ月と報告されている。また腫瘍は肉腫様成分を含んでおり,治療方針を決定するのに難渋した症例である。肝癌治療アルゴリズム2)では,当症例における治療法は動注もしくは分子標的治療薬となる。レンバチニブは,肉腫様肝癌への報告がないこと,Vp4へのデータがないこと3),また門脈腫瘍栓Vp4では肝動注化学療法は生存に寄与する可能性があるという報告を踏まえ4),今回われわれは肝動注化学療法を選択した。

肝動注化学療法導入後3ヵ月で画像上明らかな主結節の縮小を認めていたが,門脈腫瘍栓は軽度増悪していた(図1-B)。そのため,次治療への移行が必要であり,われわれは重粒子線治療を選択した。『肝癌診療ガイドライン 2017年版』では,粒子線治療(陽子線,重粒子線)は弱い推奨ではあるが,他の治療法の選択に難渋する際は選択肢として考えてよいことになっている2)。コストの面や粒子線治療による有害事象などが懸念されるが,高い局所制御能力があり,今回主結節の著明な縮小があり,門脈腫瘍栓も含めて全照射が可能となったため,重粒子線治療を選択した。現在,臨床上明らかな再発はなく,外来にて経過観察できている貴重な症例である。

肉腫様HCCはどのような治療でも,ほとんどが治療抵抗性である。また,HCCへの肝動脈化学塞栓術(TACE)後などに肉腫様変化や低分化型HCCへの脱分化などが示唆される再発形式を認めることがある。これには,TACE後の低酸素状態におけるHIF-1αの増加による各種増殖因子の産生亢進が強く関係していると考えられている。

また,門脈腫瘍栓においては現在,分子標的治療薬がよいのか,肝動注化学療法がよいか議論されている。当院では,門脈腫瘍栓合併HCCへのNew FP療法とソラフェニブの前向き非ランダム化コホート研究において,New FP療法とソラフェニブ群でそれぞれOS 30.4ヵ月vs. 13.2ヵ月(HR 0.60),PFS 9.5ヵ月vs. 5.1ヵ月と,New FP療法で有意に良好であることを報告した5)。そのため,当科では門脈腫瘍栓を伴うHCCには肝動注化学療法を選択している。

現在,進行HCCへの治療は分子標的治療薬時代に突入しており,免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の治験でもポジティブな報告がされてきている6)。今後,進行HCCの割合が増えていくなかで,肉腫様HCCの割合も増えると考える。そのなかで,治療において単一治療に固執するのではなく,分子標的薬治療,肝動注化学療法,放射線治療などの利点・欠点を十分に理解したうえでの集学的治療が重要であると考える。そのなかで,現在進行している分子標的治療薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法への期待はさらに高まることが予想される。


References

1) Hwang S, Lee SG, Lee YJ, et al. Prognostic impact of sarcomatous change of hepatocellular carcinoma in patients undergoing liver resection and liver transplantation. J Gastrointest Surg. 2008 ; 12(4) : 718-24.

2) 日本肝臓学会 編.肝癌診療ガイドライン 2017年版.東京:金原出版;2017.

3) Kudo M, Finn RS, Qin S, et al. Lenvatinib versus sorafenib in first-line treatment of patients with unresectable hepatocellular carcinoma: a randomised phase 3 non-inferiority trial. Lancet. 2018 ; 391 (10126) : 1163-73.

4) Kudo M, Ueshima K, Yokosuka O, et al. Sorafenib plus low-dose cisplatin and fluorouracil hepatic arterial infusion chemotherapy versus sorafenib alone in patients with advanced hepatocellular carcinoma (SILIUS) : a randomised, open label, phase 3 trial. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2018 ; 3(6) : 424-32.

5) Nakano M, Niizeki T, Nagamatsu H, et al. Clinical effects and safety of intra-arterial infusion therapy of cisplatin suspension in lipiodol combined with 5-fluorouracil versus sorafenib, for advanced hepatocellular carcinoma with macroscopic vascular invasion without extra-hepatic spread: A prospective cohort study. Mol Clin Oncol. 2017 ; 7(6) : 1013-20.

6) Cheng A-L, Qin S, Ikeda M, et al. IMbrave150: Efficacy and safety results from a ph III study evaluating atezolizumab (atezo) +bevacizumab (bev) vs sorafenib (Sor) as first treatmen (ttx) for patients (pts) with unresectable hepatocellular carcinoma (HCC). Ann Oncol. 2019 ; 30(Suppl_9).