「治療戦略上のメリット」

進行・再発Triple negative乳癌(TNBC)に対するプラチナ製剤に関して,奏効率の向上を示した第Ⅱ相比較試験が1つ存在するのみで,現時点でプラチナ製剤の有用性は不明である。術前化学療法においては,いくつかの比較試験の結果より,従来のアントラサイクリン系とタキサン系薬剤の組み合わせにプラチナ製剤(カルボプラチン)を併用することにより病理学的完全奏効(pCR)率の向上が示されており,長期予後の改善が期待できる。しかし,現時点で,無再発生存期間や生存期間などの長期治療成績の結果は存在しない。


「治療戦略上のデメリット」

TNBCは不均一な疾患であり,サブタイプにより感受性が異なる。前臨床試験では,プラチナ製剤に感受性が高いことが示されているのはbasal-likeである。それ以外のサブタイプはプラチナ製剤の感受性は高くない。このためプラチナ製剤の投与に際してTNBCのうち,メリットを受けるbasal-likeを選別する必要があるが,現時点で遺伝子発現解析以外に選別は困難で,免疫組織化学染色などの汎用性のある検査法が存在しない。プラチナ製剤は,タキサン系薬剤と併用されることが多いが,術前化学療法での比較試験では,併用により主に血液毒性が増強される。今までの臨床試験では,プラチナ製剤は主にカルボプラチンが用いられているが,有効性および血液毒性を考慮したカルボプラチンの至適な投与スケジュール(毎週あるいは3週)は不明である。


●本企画「誌上ディベート」は,ディベートテーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論です。問題点をクローズアップすることを目的とし,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。