「Summary」 放射線性腸炎は腹部・骨盤内への放射線治療後に, 腸管の機能的・器質的障害を生じる病態で, 臨床的な病期から早期障害(early reaction)と晩期障害(late reaction)に区分されている. 早期障害が主に粘膜に生じる可逆性の変化であるのに対し, 晩期障害は局所の動脈内膜炎による血管壁の線維化や肥厚・狭窄などを伴った不可逆性の変化であり, 重症化すると種々の合併症とともに放射線誘発大腸癌の発生もみられる. 本稿では前立腺照射後に発症した放射線誘発直腸癌の症例を提示し, 臨床経過, 肉眼所見, 組織学的所見の特徴を指摘して考察を加えた. 放射線誘発大腸癌の発生には晩期障害による慢性炎症とdysplasiaが重要であり, これを踏まえた放射線治療後のサーベイランスを検討する必要がある. 「はじめに」 放射線照射によって腸管に障害を生じることの指摘は古く, 1895年のX線発見から2年後の1897年には放射線作業者に腹痛や下痢を生じ, 鉛による遮蔽で改善した報告がある1).