てんかんは,歴史的に,常に精神医学と神経学のせめぎ合う領域であり続けてきた.てんかんの脳波研究におけるパイオニアの一人であるGibbsは,側頭葉てんかんを論じた記念碑的な論文において,「シルビウス溝は精神医学と神経学を分かつ境界である」という有名な警句を発している1).これは臨床的にもきわめて有用な警句であって,いわゆる辺縁系を巻き込むてんかん発作が,難治かつ精神科的合併症が多いのに対して,新皮質由来のてんかん発作では,精神科的合併症があまりみられないことを見事に指摘したものである.MacLeanの脳の三層構造説,すなわち,脳幹から基底核を爬虫類脳,大脳辺縁系を哺乳類脳,新皮質を人間脳とする説は,現在では,たとえば鳥類には高度なコミュニケーション能力があることが明らかになるなど,学説としてはそのまま受け入れる医学者はほとんどいないが2),てんかんにおける前述のGibbsの警句をより一般的なかたちで理解する補助線として用いるにはいまなお有用である.まずは,精神医学と神経学の境界の問題を,脳の解剖の観点から考えてみたい.