脳はブロードマンの脳地図に表されるように,解剖学的・細胞構築学的区分をもとに分けられてきた.そして,同じ細胞構築の特徴をもち,機能的にも同様な活動を行うzone(領域)として1から52の機能局在論に使われてきた.しかし,20世紀の終わりより,脳は接続性・連結性・結合性の面で機能的に統合されるnetwork(ネットワーク)という概念へと急激にシフトしている.てんかんに関してもネットワーク病という考えが広まる一方で,焦点性てんかんと全般性てんかんという分類があるように,てんかんでは焦点あるいはepileptogenic zone(てんかん原性領域)という言葉が頻繁に使われてきた.
例えば,発作を消失させるためにはepileptogenic zoneを切除することが必要であると言われてきた.そのため,術前にEEG (electroencephalography),MRI (magnetic resonance imaging),MEG (magnetoencephalography),PET (positron emission tomography),SPECT (single-photon emission computed tomography) などの臨床神経生理学的所見と画像所見からepileptogenic zoneを正確に同定することがてんかん外科の命題となっている.ところが,近年てんかんの研究にもネットワークの概念が入ってきたことで議論が生じている.つまり,脳本来のneural network(神経細胞によるネットワーク)に加えてepileptic network(てんかん性ネットワーク)というものが存在するのかという問いである.こうしてneural network,anatomical network(解剖学的ネットワーク),functional network(機能的ネットワーク),epileptic networkなどを考えることが必要になってきた.本稿では,てんかんはzoneとnetworkどちらの概念を採用すべきか,そしてそれらの概念をいかにして臨床例に応用していくべきかを述べたい.