ドライアイベストリサーチアワード受賞論文解説
慢性移植片対宿主病マウスモデルにおける抗菌薬経口投与の病態抑制効果
掲載誌
Frontiers in Dry Eye
Vol.18 No.1 34-36,
2023
著者名
佐藤 真理
記事体裁
連載
/
抄録
疾患領域
眼疾患
診療科目
眼科
媒体
Frontiers in Dry Eye
Key Words
移植片対宿主病(GVHD),抗生物質,微生物叢,ドライアイ,ゲンタマイシン
[要旨]
モデルマウスを用いた実験で,抗菌薬ゲンタマイシンの経口投与が全身,また眼移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)の病態を抑制した。
[はじめに]
血液悪性疾患の根治療法である造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)において,造血細胞供者(ドナー)の免疫機構が宿主(レシピエント)の全身の標的組織を攻撃する疾患であるGVHDが主要な合併症となっている¹⁾。急性GVHD(acute GVHD:aGVHD)は主に皮膚,消化管,肝臓の3臓器を標的とし,皮疹,下痢,黄疸を主症状とする²⁾。一方,慢性GVHD(chronic GVHD:cGVHD)はそれらの臓器に加えて眼,口腔,爪,肺気管支といったより多臓器に多彩な病態を引き起こし,免疫抑制薬投与などの予防策を行ってもcGVHDは30〜70%と依然として高い確率で起こる³⁾。多様なcGVHDの標的臓器のなかで,眼GVHDは失明・視覚障害に陥ることもある重症ドライアイを引き起こす⁴⁾。cGVHD関連ドライアイはHSCT後2年間で約半数の患者で発症し⁵⁾,眼はcGVHDにおいて頻度の高い標的臓器として知られている。
皮膚や粘膜,腸管における細菌叢が宿主の免疫系と相互作用をもち免疫機能に影響を与えることが知られている⁶⁾。微生物を培養することなくそのままゲノムをシークエンスするメタゲノム解析の進歩により,細菌叢の異常‘dysbiosis’がさまざまな疾患に関わることが明らかになってきた⁶⁾。近年,炎症性腸疾患やシェーグレン症候群といったさまざまな自己免疫疾患・膠原病に加え⁷⁾ ⁻⁹⁾,GVHDにおいても腸内細菌叢の構成変化(dysbiosis)と病態との関連が報告され,HSCT後の腸内細菌叢の多様性の低下¹⁰⁾,急性期のEnterococcus属増加¹¹⁾,また,短鎖脂肪酸産生ClostridiaがHSCT後の予後に関与する¹²⁾といった報告がビッグジャーナルに掲載され注目されている。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。