【特集 肥満細胞は今】
特集にあたって
掲載誌
皮膚アレルギーフロンティア
Vol.14 No.2 5,
2016
著者名
神戸直智
記事体裁
抄録
疾患領域
皮膚疾患
診療科目
皮膚科
媒体
皮膚アレルギーフロンティア
フランスのパスツール研究所では,そこに働く女性研究員を好酸球に例えて賛美したという.「レアで,美しい」というのがその心であるが,本特集で扱う肥満細胞も,好酸球に負けず劣らず,美しい細胞である.肥満細胞は,後年ノーベル賞を受賞することになるPaul Ehrlichの最初の仕事として,1878年に著された彼の学位論文のなかで紹介されている.このように記憶していた自分にとって,米国リッチモンドで過ごした留学時代に研究室でのミーティングの席で,かつてパスツール研究所で働いていた同僚の女性が,肥満細胞を最初に記載したのはvon Recklinghausenであるとプレゼンした時,それは自分の知っている史実とは異なると驚きを覚えた.確かに,彼の名前を冠した神経鞘腫では,HE染色でも目玉焼きを思わせる形をした肥満細胞を大量に同定することができる.しかし,産業革命によって繊維業が隆盛を極めるドイツにあって,繊維を染める色素が次々と生み出されるなかで,トルイジンブルーに代表される青いアニリン色素で染色するにもかかわらず鮮やかな紫色へと色調を変える,メタクロマジーと呼ばれる現象を示す顆粒を豊富に蓄えた細胞の存在に気づき,この細胞にMastzellen(肥満細胞)という名前を与えたのはEhrlichなのである.
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。