2013年3月19日~23日まで,米国イリノイ州シカゴのMcCormick Place Convention Centerで米国整形外科学会(American Academy of Orthopaedic Surgeons;AAOS)の2013年Annual meetingが開催された.例年は,米国整形外科基礎学会(Orthopaedic Research Society;ORS)と同じ場所で続けて開催されるのであるが,今年はORSが2月にサンアントニオ(米国テキサス州)で開催されたため,AAOS単独での開催であった.シカゴの気温は例年よりも低く,初日は雪がぱらつくなかでの開催となった.2日目からは雪は降ることはなかったが,気温は日中でも氷点下という非常に寒い状況であった.しかし学会は,外の気温を感じさせないほど熱く,参加者も約3万5千人という非常に大規模な学会であった.米国の整形外科関連の最も大きな学会であり,参加者は世界各国から集まった.今年は,825題の口演と580題のポスターが採択され,28のシンポジウム,217のInstructional courseが行われた.


 まず今回のAAOSで目を引いたのは,参加受付,ポスター展示などが行われたホールの中央に大きなギプスの山が作られていたことであった.



米国では毎年200万人の骨粗鬆症による骨折患者がおり,2025年までには年間250億ドルの医療費がかかることが予測されているようで,このギプスの山は骨粗鬆症による骨折をなるべく防止するために,50歳を過ぎて骨折の既往があれば骨量測定をするように訴えかけるものであった.米国では高齢女性のわずか15%未満しか骨量測定をしていない現状があるため,これを打開しようとしたキャンペーンである.また機器展示も非常に大きな展示場で600社以上の展示が行われた.日本ではなかなか手に入らないような手術機器も多く,それらを実際に手にとって見られるのは貴重な経験であった.またRobodoc®やMAKOplasty®を用いたロボット手術のデモも行われ,非常に興味深かった.




 筆者が専門とする股関節領域では,ここ数年で問題となっているメタルオンメタル(金属対金属)人工股関節置換術に関する演題やシンポジウムが多かった.いまだに原因は明らかにされてはいないが,金属摩耗粉に対するアレルギーや偽腫瘍の問題などがかなり整理されてきた感があり,対応策が具体的に提示されていた.また近年では,ヘッドネックジャンクション(人工股関節の骨頭とステムネックの接合部)の問題も取り上げられ,今回は人工股関節摺動面からの金属摩耗に関する話題と同じくらいヘッドネックジャンクションにおける金属摩耗に関する話題が多いようであった.ポスターセッションでは,各分野から1題ずつベストポスターが選ばれ,日本からは千葉労災病院の清水 耕先生の“Iliopsoas Muscle Atrophy was Evident in the Patients with Hip Osteoarthritis─MRI Analysis of 800 cases”が選出された.


 シカゴの街は高層ビルが多く洗練された印象がある.治安もダウンタウンは比較的安全で,観光客などで賑わっていた.夜も気温が非常に低いのにもかかわらず,レストランやバーは賑わっている様子であった.来年のAAOSはORSと続けて開催となり,2014年3月11日~15日まで米国ルイジアナ州ニューオリンズで開催される予定である(ORSは同じ会場で3月15日~18日開催予定).来年は例年通り,ORSと続けての開催になるため,日本からの参加者も今年より多くなるであろう.


横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学(整形外科)准教授

稲葉 裕 Inaba Yutaka


横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学(整形外科)教授

齋藤知行 Saito Tomoyuki