メトトレキサート(MTX)未使用の活動性関節リウマチ(RA)に対し,MTXと生物学的製剤の併用療法の効果がMTX単独より優れているのは大規模試験の成績から確かである.しかし,MTX単独でもかなりの臨床効果と骨破壊抑制効果がある.個々の症例で考えると,MTXのみでも十分な治療ができる患者も少なくない.経済的に問題なく,患者自身も積極的治療を望む場合は初めから生物学的製剤(アダリムマブ)+MTXによる治療が良いだろう.しかし,通常はまずMTXを十分に使用し,これで効果不十分な患者を生物学的製剤で治療する,というのが現実的な治療であると思われる.
1 RA治療におけるメトトレキサート(MTX)の位置づけ
メトトレキサート(MTX)は関節リウマチ(RA)治療において「アンカードラッグ」と位置づけられ,RA治療の基本であり,MTXの使用を考慮しないRA治療はない.すなわち,RAの診断が下されたらまずMTXの使用を考慮し,禁忌(表1)1)でなければMTXを開始する.
MTXが禁忌の場合や,使用後に副作用が認められた場合は,他のDMARDs(生物学的製剤を含む)を使用する.またMTXで十分な効果が得られない場合は,MTXに生物学的製剤または他の低分子化合物DMARDsを追加併用する,というのがRA治療の基本である.とくに,MTX効果不十分例を対象とした大規模試験において,生物学的製剤の追加併用の有効性が証明されており,このような場合は,やはり禁忌や経済的問題などがない限り,生物学的製剤の追加併用を検討するべきである.一方,MTX-naïveな症例を対象として,MTXと生物学的製剤および両者の併用療法の効果が比較された試験も各製剤で実施されており,生物学的製剤(とくにTNF阻害薬)とMTXの併用がMTXの単剤治療より優れていることが報告されている2)-4).しかし,診断後初めから生物学的製剤を含む治療を開始する必要が本当にあるだろうか?
本稿では,MTX-naïve症例を対象とした大規模試験のなかで,生物学的製剤とMTXの併用療法の有効性にばかり着目するのではなく,MTX単剤群に注目して,MTX単独療法の有用性について述べる.
2 MTX単剤での有効性
まずエタネルセプトを用いたTEMPO試験を紹介する.対象は,罹病期間が6ヵ月から20年までの,MTX以外の1剤以上のDMARDに効果不十分なestablished RAで,これらの症例をMTX単独,エタネルセプト単独,両者併用の3群に分けて比較された2).各群の平均罹病期間は6~7年,DAS スコアは5.5~5.7と高疾患活動性であった.結果は,52週目のACR20 responseでMTX単独群でも75%ときわめて高い反応があり,エタネルセプト単独群の76%と同等であった(図1).
両者併用群では85%と有意に高いresponseが得られたが,その差は10%である.ACR50,ACR70,寛解率(DAS<1.6)といったより厳しい指標では,併用群で各単独群より高いresponseがみられたが,MTX単独群でもエタネルセプト単独同等の高い反応があった.すなわち臨床的効果という点では,MTX単独療法でもかなり効果が得られると言える.ただ,骨破壊の抑制効果については,MTX単独群では52週で総シャープスコアが2.8進行したのに対し,エタネルセプト単独群では0.52,そして両者併用群では-0.54と,むしろ平均として改善したという画期的な成績で,TNF阻害薬の重要性が示された2).
次にインフリキシマブのASPIRE試験を紹介する3).この試験の対象患者は,罹病期間3年以内で,腫脹関節10ヵ所以上,疼痛関節12ヵ所以上の活動性の高い早期RAで,リウマトイド因子陽性,骨びらんの存在,CRPが2.0 mg/dL以上のいずれかを有する症例である.ここではMTX単独(平均15.1 mg/週)とインフリキシマブ3 mg/kg+MTX(15.5 mg/週)の2群の比較を紹介する.54週目のACR20 responseは54%と62%で大きな差はなく,DAS寛解率でも15%と21%で大きな差はなかった(図2)3).
ベースラインから54週までの総シャープスコアの変化で評価した骨破壊の進展は,インフリキシマブ(3 mg/kg)併用群0.4に対し,MTX単独群では3.7と多く3),インフリキシマブの骨破壊抑制効果は確かにMTX単独群より勝っていた.
同様に,罹病期間3年未満で疼痛関節数10,腫脹関節数8以上の早期活動性RA(平均罹病期間0.7~0.8年,DAS28 スコアが6.3~6.4)を対象としたアダリムマブを用いたPREMIER試験でも同様の成績が得られている(図3).
すなわちMTXとアダリムマブの併用療法は確かに優れた成績であったが,MTX単独群でもACR20 responseが63%と高く,項目によってはアダリムマブ単独群よりも高い傾向にあった.しかし,骨破壊については総シャープスコアのベースラインからの変化はMTXで5.7/年と,アダリムマブ単独群および両者併用群より高かった4).
以上の成績から,骨破壊をしっかり抑制するには確かに生物学的製剤+MTXが勝っているのは明らかであるが,これはいずれも平均値であり,個々の症例でみるとMTX単独群のなかでも骨破壊が進まなかった症例はあるはずである.わが国で行われたアダリムマブを用いた治験(HOPEFUL 1試験)5)は,発症2年以内で,疼痛関節数10以上,腫脹関節数8以上の早期活動性RAを対象とした試験であり,MTX単独(6.2 mg/週)とMTX+アダリムマブ併用の2群で,26週での骨破壊の進展抑制効果が比較された.その結果,ベースラインからの総シャープスコアの変化が0.5以下となる「no progression」の患者の割合は,MTX単独群で35.4%に対し,アダリムマブ併用群では62.0%と高く,逆に進行が3.0以上となる「clinically relevant progression」の患者の比率はMTX単独群では37.3%にもなるが,アダリムマブ併用群では14.0%にとどまっていた(図4)5).
この結果の解釈はもちろん「MTX+アダリムマブがMTX単独より骨破壊を有意に抑制した」ということであるが,MTX単独療法の結果だけをみるように見方を変えれば,これだけ活動性の高いRA患者に対し,35.4%の患者は骨破壊の進展をほぼ完全に抑制できた,とも言える.臨床効果でも,MTX単独群は併用群には劣るとはいえ,26週目で56%がACR20 response,39%がACR50 responseを満たし,DAS28(ESR)寛解率が14.7%で,当面の治療目標である低疾患活動性には24.5%の患者が達していた5).
生物学的製剤が高価で患者の経済負担が大きいことを考慮すると,まずHOPEFUL 1試験のデータに基づけば,26週で約35%の患者の骨破壊の進行を止め,約25%の患者を低疾患活動性に導くことが第一歩である.さらにHOPEFUL 1試験でのMTX用量が6 mg/週程度と非常に低い容量であったことと,海外でのPREMIER試験ではMTX15 mg/週以上が使用され,より高い臨床効果が得られていたことから,MTXを増量して積極的に使用すれば,HOPEFUL 1で得られたよりさらに高い臨床効果および骨破壊抑制効果が期待できると思われる.
TNF阻害薬以外の製剤でも同様の試験がある.アバタセプトを用いたAGREE試験は,発症2年以内のMTX-naïveなRAで,疼痛関節12以上,腫脹関節10以上の高疾患活動性患者(平均DAS28-CRPが6.2~6.3)を対象として,MTX単独とMTX+アバタセプトの併用療法の有効性が比較された6).臨床的有効性では,MTX単独群はDAS28-CRP寛解率23.3%,ACR50 response 42.3%と,アバタセプトとの併用群よりいずれも悪かった.しかしACR50 responseが42.3%という数字はかなり高い,すなわち有効性が高い治療であると言える.また,Genant modified Sharp scoreのベースラインからの変化量はアバタセプト併用群で有意に低く,MTX単独より骨破壊は抑制されていたが,累積分布図でみると骨破壊がまったく進行しなかった患者の割合は,MTX単独群でも52.9%と,やや低いもののアバタセプト群の61.2%と比べて遜色なかった(図5).
トシリズマブを用いたAMBITION試験でも,MTX-naïveまたは6ヵ月以上MTXが投与されていない患者で,疼痛関節8ヵ所以上,腫脹関節6ヵ所以上の活動性RAを対象として,MTX群とトシリズマブ単独群の2群で有効性が比較された7).MTX-naïveの患者のみの成績では,ACR20 responseはトシリズマブ単独群で68.6%に対し,MTX単独群が53.7%で有意に低かった(図6).
この試験ではトシリズマブ単独療法(MTX非併用)がMTXより有意に有効性が高かったことが注目されたが,MTX単独群に目をやるとACR-20 responseが50%以上あり,MTXのみでも有効性はかなり高いと言える.
おわりに
大規模試験の成績は,生物学的製剤とMTXの併用を早期から行うことがより有効であることを示しているが,MTX単独群に注目すれば,かなり臨床効果はあり,骨破壊抑制効果もあると言える.また,大規模試験の成績は,あくまで集団としての平均値での評価である.個々の患者では,生物学的製剤を使用しても無効例や骨破壊進行例もある一方で,MTX単独でも寛解となり,骨破壊の進行もない症例が存在する.実臨床で1人の患者を前にしたとき,いかに活動性の高いRA患者でも,果たして全例に生物学的製剤+MTXの治療を選択するであろうか? 経済的に問題なく,患者自身も積極的治療を望む場合はその選択肢が良いであろう.しかし,通常はまずMTXを十分に使用し,これで効果不十分な患者を生物学的製剤で治療する,というのが現実的な治療であると思われる.
References
1)日本リウマチ学会ホームページ(http://www.ryumachi-jp.com/)
2)Klareskog, L., van der Heijde, D., de Jager, J.P. et al.:Therapeutic effect of the combination of etanercept and methotrexate compared with each treatment alone in patients with rheumatoid arthritis:double-blind randomized, controlled trial. Lancet 363:675-681, 2004
3)St. Clair, E.W., van der Heijde, D.M., Smolen, J.S. et al.:Combination of infliximab and methotrexate therapy for early rheumatoid arthritis:a randomized, controlled trial. Arthritis Rheum. 50:3432-3443, 2004
4)Breedveld, F.C., Weisman, M.H., Kavanaugh, A.F. et al.:The PREMIER study:A multicenter, randomized, double-blind clinical trial of combination therapy with adalimumab plus methotrexate versus methotrexate alone or adalimumab alone in patients with early, aggressive rheumatoid arthritis who had not had previous methotrexate treatment. Arthritis Rheum. 54:26-37, 2006
5)Takeuchi, T., Yamanaka, H., Ishiguro, N. et al.:Adalimumab, a human anti-TNF monoclonal antibody, outcome study for prevention of joint damage in Japanese patients with early rheumatoid arthritis:the HOPEFUL 1 study. Ann. Rheum. Dis. 2013 Jan 11 (Epub ahead of print)
6)Westhovens, R., Robles, M., Ximenes, A.C. et al.:Clinical efficacy and safety of abatacept in methotrexate-naive patients with early rheumatoid arthritis and poor prognostic factors. Ann. Rheum. Dis. 68: 1870-1877, 2009
7)Jones, G., Sebba, A., Gu, J. et al.:Comparison of tocilizumab monotherapy versus methotrexate monotherapy in patients with moderate to severe rheumatoid arthritis:the AMBITION study. Ann. Rheum. Dis. 69:88-96, 2010
埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科教授
天野宏一 Amano Koichi
・DEBATE 1 MTX単独による治療/天野宏一