国際整形外科災害外科学会(SICOT, Société Internationale de Chirurgie Orthopédique et de Traumatologie)の第33回会議が,2012年11月28~30日にアラビア半島のドバイで開催されました.7つの首長国(Emirate)から成るアラブ首長国連邦において,ドバイはひとつの首長国およびその首都の名前を指します.ドバイショックで有名になりましたが,経済は順調に回復し,周辺諸国の政治不安にもかかわらず治安は依然として良好のため,観光客は再び増加しています.夏は気温50度を超す砂漠気候の地ですが,冬は本当に暖かく過ごしやすいと感じました.日本からは関西国際空港発の直行便を利用すれば約11時間で,ひと眠りして発表準備をすればあっという間のフライトでした.


 SICOTは1929年に設立され,現在では110ヵ国のメンバーから成る国際組織です.今回はPAOA(Pan Arab Othopaedic Association)とのcombined meetingということもあり3,500人以上が参加し,演題は31のシンポジウムのほか,口演が670題,e-posterが927題で,基礎医学から人工関節,外傷まで幅広い演題が発表されました.また,最先端の治療に関する発表から各国の社会背景や医療事情が強く反映されたものまで,多様な発表内容も本学会の特徴と言えます.


私の発表のひとつはResearch symposiumで,会場はメインフロアからひとつ上の階の奥,やや敷居の高い雰囲気でしたが,“Tissue engineering for cartilage”と題してわれわれが開発してきた3次元人工組織(TEC)を用いた軟骨再生を中心にお話ししました.参加者からの率直な質問と他演者との活発な討論により,組織再生工学を用いた再生医療全般についての理解が深まり,今後の研究にとっても非常に有意義な時間となりました.もうひとつの発表はSpine sessionでの“A novel spinal brace in management of scoliosis due to cerebral palsy”でしたが,脳性麻痺など手術に大きなリスクを伴う全身状態を有した症候性側彎症に対して開発した装具療法という限定的な内容にもかかわらず,多くの先生が興味をもって質問してくださったことは少しの驚きと大きな喜びとなりました.

 会場となったWorld Trade Centerは市の中心部であり,周囲に手頃なホテルもありましたが,タクシー料金が安価でしたので,思い切って少し離れてペルシア湾の青い海に面したホテルに滞在しました.有名なBurj Al Arabに程近いホテルはホスピタリティーも素晴らしく,快適過ぎて仕事を忘れそうになりました.

 ドバイは日本人の私にとって不思議で魅力的な街でした.空港に降りた途端に感じた欧米とも異なる独特の雰囲気.行き交う人々の多様性は,原住民16%以外はすべて外国人という人口構成に裏づけられていました.連邦成立41周年を祝うNational Day直前であったため,街には国旗と7人の首長をシルエットで現したロゴが溢れていました.これに関連したイベントもあり,夏の酷暑が和らぐ11~12月は気候的にも観光のベストシーズンで,昼間はビーチリゾートも存分に楽しむことができます.


買い物やビーチと何不自由ないドバイでしたが,それだけではハワイと変わらないということで,学会場で斡旋していたDesert Safariというツアーに参加しました.砂丘を四駆自動車で走り,砂漠のキャンプを訪れてファルコンショーを見物し,ラクダに乗り,夜はベリーダンスに魅せられながら星空の下,伝統料理を楽しむという充実の内容でした.とくに見渡す限りの砂漠は印象的で,広大な空間に延々と波を打つ砂の丘,風がつくる美しい紋様はいつまで見ても飽きません.超豪華なホテルやモール,世界一高いBurj Khalifaなど最先端の高層建築を有しているドバイも,車で1時間走れば荒涼とした一面の砂漠.それは文明の両端を見るような不思議な体験でした.不安定な周辺国の「混乱の恩恵」も受けながら,今もなお多くの観光客が集まるドバイ.私も是非また機会があれば訪れたいと思いました.

 最後に意外な弱点をひとつ.滞在中に不運にも雷雨にみまわれ,道路が冠水し渋滞する,モールで雨漏りが生じるなど,雨量はそれ程でもないのに日本ではあまり見かけない光景に驚きました.普段から雨を想定していないためかと思って尋ねると,こういった雨は年に1~2度あるかないかだそうです.そういえば街の緑の下にはほぼすべてスプリンクラーが配備されています.やはりここは砂漠気候.雨は恵みであっても対策の対象ではないのでしょう.

 今回参加したSICOTは,3年ごとの世界会議(TWC)とは別に毎年開かれる年次国際会議(AIC)でした.次回のAICは2013年10月17~19日にインドのハイデラバード,TWCは2014年11月20~22日にブラジルのリオデジャネイロで開催される予定です.


大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(整形外科)

森口 悠 Moriguchi Yu