2012年6月6日から9日まで,ドイツの首都ベルリンで欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism;EULAR)が開催されました.EULARはリウマチ領域では米国リウマチ学会と並んで世界最大規模の学会のひとつです.今年は75回目でしたが,世界115ヵ国から15,000人を超える参加があり,約1,700の演題と190のプログラムで最新知見報告とディスカッションが行われました.


 話題の中心はやはり生物学的製剤ですが,これまでと少し様相が違うのは,アダリムマブ対トシリズマブ,アダリムマブ対アバタセプトといったいわゆるhead-to-headの試験が複数報告されていたことです.これまで避けられていた(?)のか直接対決はあまりなかったのですが,今後生物学的製剤の種類増加や多様化に伴って,このような試験が増えていくと考えられます.しかし生物学的製剤はそれぞれに長所短所がありますので,結果をただ鵜呑みにするのではなく,試験デザインの公平性・妥当性をよく検討しながら結果の解釈をしていく必要があり,私たちはリウマチ専門医としてその力を養わなければならないと感じました.

 また,関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)のみならず,脊椎関節炎(Spondyloarthropathy;SpA)に関する話題も増えました.約2年前に新しい分類基準が提唱され疾患群として統一されつつあるものの,ドラッグフリー寛解が現実的に論じられているRAとは異なり,生物学的製剤休薬が困難であることや脊椎靱帯骨化抑制に関する成績がまだ不十分であること,そして欧米では日本に比して罹患率がはるかに高いことなどから,課題の多い領域と考えられます.日本では罹患人口は少ないとされていますが,逆に認知度が低いため,すでにbamboo spineの状態で診断されるケースもあり,早期診断に努めていく必要があると感じます.



 血管炎に関しては, Chapel-Hill 2012年分類について報告がありました.あくまでnomenclatureにおける改定であったようですが,ここまでの議論のなかで高安病や川崎病という病名も改定によって消えてしまう可能性があったと聞いています.とくに高安病と巨細胞性血管炎は発症年齢の違いで分類する名称になる案もあったとのことです.血管炎は欧米の報告は日本におけるprofileが異なる背景があるようですし,海外のデータを外挿するだけではなく,日本におけるエビデンスを積み上げていく必要があると感じます.

 嬉しいことに,日本からもたくさんの先生方が発表,参加されていました.なかでも千葉大学のグループが,RAの2010年ACR/EULAR新分類基準において,関節超音波を用いた場合のパフォーマンスを報告され,座長のSilman先生が素晴らしい研究とコメントされていました.日本人の国際的な活躍を見るのはとても嬉しく励みになります.

 基礎系のセッションは,迷路のように遠い部屋で行われていることが多くてやや敷居が高く,つい足が遠のいてしまいました.自己免疫疾患と外的微生物との関連や,骨免疫学の発表をいくつか聞き,勉強になると同時に着実な進歩を感じましたが,EULARでも基礎系の発表がもっと活発になると嬉しいです.

 現地に到着した6月6日は,小雨がぱらつくなかあまりにも寒く,比較的薄着だった私は思わず現地で上着を購入しましたが,最終日の6月9日は天気に恵まれました.ベルリンは全体に落ち着いた雰囲気で,遅くまで明るくて治安もよく,夜も安全な雰囲気なところは少し日本との共通点を感じました.日中はリウマチ学に浸り,夜はビール・ワインを美味しくいただき,本当に有意義な4日間を過ごすことができました.その間,大学での業務を預かってくれた医局の皆様に感謝いたします.来年のマドリードでの会議にも是非また参加させていただき,最新のリウマチ学を吸収していきたいと思います.







慶應義塾大学医学部リウマチ内科

金子祐子 Kaneko Yuko