関節リウマチの診断においてどのように関節エコーを用いるか
谷村 現在,日本リウマチ学会(JCR)を中心に,関節エコーの普及活動が盛んに行われていることから,関節エコーに対する関心が全国的に高まっています.しかし,実際に日常診療で使用している施設はまだそれほど多くなく,2~3割だという話もあります.今日は日常診療で関節エコーを取り入れて,診断や治療評価に応用している先生方にお集まりいただき,診療での具体的な取り組みとその有用性についてうかがっていきたいと思います.
出席者 (司会以外は五十音順)
谷村一秀(司会) Tanimura Kazuhide
医療法人 清仁会 北海道内科リウマチ科病院院長
岡野匡志 Okano Tadashi
大阪市立大学大学院医学研究科整形外科学
小笠原倫大 Ogasawara Michihiro
順天堂大学膠原病内科
舟橋康治 Funahashi Koji
名古屋大学医学部附属病院整形外科
関節リウマチの診断においてどのように関節エコーを用いるか(続き)
谷村 関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)の診断に関しては,米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会(ACR/EULAR)の新たな分類基準,JCRの早期RAの基準などの考え方に沿って関節エコーを補助的ツールとして使っているのではないかと思いますが,先生方の実際の使い方を教えていただけますか.
岡野 ACR/EULARの分類基準で評価するのはもちろんですが,可能な限り,初診の患者さんには全例で関節エコーを使用するようにしています.明らかに腫れている場合でも,治療後の経過を比較する際に役立ちますし,初期であまり腫れが強くない症例,触診でわかりにくい症例などは,関節エコーで滑膜を評価することによって診断に近づくケースもあると感じています.
とくにセロネガティブの症例では,ACR/EULARの分類基準で6点に至らない症例が少なくありません.そのような症例でも,エコーでみると大関節の滑膜腫脹が認められることがあります.
小笠原 当院では,臨床的に判断が容易な症例には関節エコーは使用しておらず,診断に迷った症例のみでエコー検査を行い,活用するようにしています.
RA疑いだが腫脹関節痛や圧痛関節痛の数が分類基準に足りない症例や,セロネガティブの症例,あるいはリウマチ性多発筋痛症(PMR)やRS3PE (remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)などの鑑別診断に迷うような症例で関節エコーを使用しています.
谷村 炎症反応やリウマトイド因子(RF)が陰性で,ただ関節が少し腫れているような場合,あるいは手足の小関節の痛みを訴えるような場合など,腫脹・疼痛の臨床的判断においても関節エコーの有用性があると思います.
小笠原 以前までは経験に基づく,ある意味では曖昧に腫脹の有無を判断していたのが,関節エコーを利用することによりはっきりと画像で確認できるようになったことは非常に良いことだと感じています.
舟橋 当院では,臨床所見として腫脹や圧痛など外観で明らかに関節炎があるような状態でセロポジティブの場合やCRP陽性でRAと診断できるのであれば,あえて追加としての超音波検査は行っていません.
セロネガティブの場合,CRPが陰性で見た目では関節が腫れているかどうか判断に困るような場合,そして関節の痛みを訴える場合などにエコーを用いると,ドップラー法で所見が出ることがあります.また治療効果をみる際も,治療介入による変化がドップラー法以外では何も確認できなかったという症例を何例か経験していますので,関節エコーでしか判別ができない例もあるのではないかと考えています.
谷村 小関節では血液検査上で炎症反応が出ないというのは注意点ですね.
小笠原 最近も非常にエコーの重要性を感じた症例がありました.他院では抗CCP抗体やRFが高いが,炎症反応はほぼ正常で,単関節炎だったので診断に至らなかったのですが,エコー画像をみてみると,明らかに単関節ではなく多関節に関節滑膜炎があったのです.紹介元の医師が多関節腫脹をみつけることができなかったことによりRAと診断できなかった症例でした.
舟橋 無症状であったり,所見として確認できない腫脹も相当数存在すると考えています.
小笠原 エコーを実施していない先生が,自分の診察のみで腫れの有無という基準をつくっていると,感度よく罹患関節を検出できていない場合もあると思います.ですので,エコーで自身の診察判断の矯正を適宜行うことをお勧めしたいです.
谷村 確かにそうですね.
小笠原 ほかにも,半年前からの手指・足趾の痛みがあり,抗CCP抗体も高いという症例で,担当医はほぼRAだと考えてはいるのですが,活動性があまりないために治療は急いでいないケースがありました.しかし活動性の精査目的で関節エコー検査の依頼を受けたところ,すでに足趾にびらんができていたという症例もありました.
谷村 確かにそのような場合は単純X線では判断することができず,関節エコーでしかみられないと思います.
小笠原 単純X線で骨皮質のラインが少しぼやけている程度だけだと,びらんの判断はなかなか難しいかもしれません.
谷村 単純X線だけでは見逃してしまうケースがあることをぜひ知っていただきたいですね.
小笠原 びらん内にドップラーシグナルを伴う場合などでは,とくに早く治療する必要があると思いますので,早期診断を含めた診察技術の向上のためにもエコーは必要だと感じています.
谷村 今先生がお話しになった関節の場合,私は痛みよりも腫脹を重要視しています.腫脹の場合,たとえば滑膜におけるBモードで血流シグナルをみる前に,関節滑膜が肥厚しているという所見と,水腫ですね.それから,炎症性滑膜炎ではないような後遺症的な腫れなのかを鑑別をします.そのようなBモードでの応用についてはいかがですか.
舟橋 水腫は,液の貯留であるため,プローブで圧迫すると形態が変わります.経験的に言えば,腫脹のある関節でドップラーが出ている症例に治療介入し,ドップラーはなくなるけれども腫脹が残存したままというケースに時折遭遇します.
そのような症例の単純X線をみると,びらんが形成されていることが多く,時間が経過しているために炎症性瘢痕のように肥厚してBモードの所見が残存しているのではと考えます.いろいろな論文を読んでみると,グレースケールよりもパワードップラーのほうが関節破壊に相関性が高いというのは,グレースケール(Bモード)では炎症のない滑膜肥厚を含んでいるからかもしれません.
谷村 MRIは別としても,関節エコーはかなり鋭敏に関節腫脹のような所見をとらえることができるということですね.
岡野 私は,診断という直接的な目的に加えて,関節エコーを用いることにより自分の触診の診断能力に対してのフィードバックができることが非常に大きなメリットだと感じています.
谷村 本当の意味での補助的なツールになりますね.
小笠原 まず診察で各関節の腫脹の有無を判断し,その後関節エコーを行って,各関節の滑膜肥厚と滑液貯留の有無を判断します.その後,診察の判断とエコーでの判断を比較して,異なっていれば自己にフィードバックするというプロセスを2ヵ月繰り返すとどうなるかを検討してみました.その結果,関節エコーと診察により判断した腫脹部位との一致率が上昇することがわかりました.さらに,パワードップラーシグナル陽性の炎症性関節炎部位との一致率も上がることから,この自己へのフィードバックが診療,診察手技の向上に有効であるということがわかり論文にまとめたところです.
関節エコーの標準化について
谷村 実際の臨床では,開業医の場合は診察室でポータブルの関節エコー検査を行っていることがほとんどだと思います.使用する機器の性能の差異もあると思いますが,理想像としては腹部エコーや心臓エコーのようにエコーに熟練した第三者が実施するべきだと思います.その辺りの実際の活用法についてご意見をいただけますでしょうか.
岡野 確かにMRIをオーダーする場合も自分で撮るわけではありませんので,関節エコーもそのような検査のひとつとして位置づけられるのが望ましいのかもしれません.しかし,医師には診察中に気になるところにエコーを当てたり,技師が当ててくれたエコー画像を解釈する技術が必要だと思います.
小笠原 消化器や循環器専門医も,エコーができない方はいないと思います.ですから,疾患と検査の意図を理解している医師がエコー検査の技術をもったうえで,技師も実施できるような環境があると良いと思います.
舟橋 心臓や消化器のエコーも,現在のように普及する以前はこのような議論をしていたと考えます.最初は医師が行っていたものをやがて技師が行っていくようになり,それが徐々に標準化して,技師が肝臓の区域を全部撮ったり,心臓の決まった領域を撮るという標準撮像が決まっていったのだと思います.関節エコーにも同じような標準化という流れがきていると言えるのではないでしょうか.
谷村 確かに標準化の流れはきていますが,各メーカーの機種間の差異や,どの関節で標準化を行うかなど,まだまだ問題があります.そのためにJCRで研修会を開催していますが,機種間の差異は確かにあります.見えるはずのものが見えない,逆に見えないものが見えるということもあります.
舟橋 Over diagnosisですね.
谷村 見えるはずのものが見えないのはまだ許されると思いますが,逆に見えないはずのものが見えすぎてover diagnosisになることが一番危険ではないかと思います.
小笠原 私も見え過ぎると感じることがあります.診断に迷った症例が紹介され,関節エコーを見てみると,予想外のところにパワードップラーが出たりして,さらに迷うことがあります.またPMRだと疑っている症例を関節エコーでみたときに,思ったより末梢関節で滑膜炎が出てしまうことや,RS3PEで腱鞘優位にドップラーシグナルが出ているのならまだいいのですが,関節滑膜でもかなりドップラーシグナルが強くみられることなどがあります.そのような場合は超音波検査(US)に依存しすぎることなく総合的に判断する,ということになります.
治療モニタリングにおいてどのように関節エコーを用いるか
谷村 治療評価には,DASに代表される臨床的評価や構造破壊を検証する画像評価を用いられると思いますが,関節エコーを治療評価に応用するにあたって,その評価ポイントを教えていただけますでしょうか.
岡野 基本的にはガイドラインに沿って関節エコーを実施していますが,診療時間や検査の枠内で行うためには28関節すべてに実施するのは現実的ではないので,当院では手指,手関節を中心に治療効果の判定を行い,それを治療にフィードバックしています.
それから,生物学的製剤での治療は高額ですので,継続するためには患者さんがその効果を実際に目でみてわかるものがあれば治療へのアドヒアランスも上がると思います.そういった意味でも,患者さんと一緒にリアルタイムで治療の効果を確認できる関節エコーは有用なツールだと思います.
谷村 生物学的製剤を導入した場合は,どういうタイミングでエコーを行っていますか.
岡野 当院では全例,導入前と半年後,1年後に定期検査を行っています.関節エコー画像で効果が確認できなければ治療法の切り替えも考慮します.
小笠原 私は治療経過をフォローするうえでは,通常は総合的活動性指標(composite measure)を使っています.関節エコーを使うのは,臨床的寛解状態の方に関して,きちんと寛解が得られているか,あるいはサブクリニカルな滑膜炎が残っていないか確認する場合のことが多いです.
谷村 その場合は,28関節を評価されるのですか.
小笠原 以前は28関節を評価していたのですが,今は自覚症状が強い部位と診察して他覚所見のある関節を評価するというように,少数関節をしっかり診るという方針に変えています.
舟橋 当院では,2011年までは私が個人の診療時間を利用して関節エコーを施行していましたが,2012年の4月からはリウマチ外来の日に大学院生を専従エコー検査士として配置して,必要に応じて関節エコーを行うようになりました.治療介入前に関節エコーを施行して,治療効果をみるのは非常に良いことだと思うのですが,検査枠の問題などもありますので,現状は,関節エコー検査には血清データなどが良好な一方で関節症状の訴えがあるような症例に対して局所の滑膜炎所見がないか確認するために行っています.関節エコーを用いることによって,治療の介入,あるいは変更が必要かどうかを考えるうえで,補助的な情報が得られると考えています.ただ,関節エコーを用いて治療効果を確認した際に,画像的に炎症所見が残っていた場合の判断に困る場合があります.
小笠原 残っていたというドップラーシグナルの画像が,どのような形態なのかが問題になるかと思います.そしてそれが痛みなどを引き起こしている場合は次の治療法を考えることになりますが,これ以上治療を強化する手段がない場合は,そのまま経過観察するしかないでしょうね.
舟橋 でもそこはとくに注意すべき部位として観察することになるのでしょう.確かに局所に残っているのであれば,局所の治療を考えることもひとつの選択肢となると思います.
谷村 例えばステロイドの関節注射をすれば消えてしまうような気もします.
小笠原 パワードップラーシグナルにも許容範囲があると思うのですが,そこがまだわからないのです.
谷村 シグナルが完全に消えていて,突然それが再燃するようなことも結構あるのでしょうか.
岡野 完全に消えていて再燃してくるというケースは経験ありません.
舟橋 臨床的寛解に達していても,ドップラー陽性の関節が残存していれば,生物学的製剤を中止したあとで再燃することが多い印象があります.
小笠原 バイオフリーに持ち込むことができるか否かにパワードップラーシグナル所見の有無が関与しているかは,まだわからないところがあります.ある報告では,バイオフリーにできるかどうかにパワードップラー所見は寄与しないという結論になっていました(Ann Rheum Dis 69:1636-1642,2010).症例が少ないものだったので,もっと多くの検証とエビデンスが必要だと思いますが,パワードップラーの有用性を実感している私としては少し残念な結果でした.
私の実際の経験で,生物学的製剤が奏効して完全にパワードップラーシグナルが消えた方でも,生物学的製剤を中止してから再燃しているケースもあるので,パワードップラーだけではバイオフリー寛解の可能性を議論することはできないのかもしれません.いずれにせよ,もっとエビデンスの蓄積が必要だと思います.
日常診療における関節エコーによるモニタリングの有用性
谷村 生物学的製剤を用いたRA治療をしながら関節エコーで診療状況をモニターしたような症例があればご紹介いただけますか.
岡野 炎症が著明なため,3ヵ月でメトトレキサート(MTX)8mg/週の時点でアダリムマブを導入した症例では,1ヵ月,3ヵ月,6ヵ月という経過でDASも減少し,ステロイドも徐々に減量して6ヵ月で寛解に至りました(図1).
その経過と合わせて関節エコー画像をみてみると,3ヵ月,6ヵ月の経過でパワードップラーの血流シグナルがすみやかに消失していました(図2).
小笠原 私が紹介する症例は,RAと診断して最初はMTXから治療を開始した例です.治療効果が得られなかったため,関節エコーを行ったところ,思ったより腱鞘滑膜の腫脹が出ており,手のむくみもあったため,RS3PEも疑い,ステロイドに切り替えました.それでも反応が良くなかったため,最終的にはRAと診断して,MTXをまた再開し,効果不十分と判断してアダリムマブを開始しました.その段階で治療効果は得られていたのですが,さらにMTXを1錠のみですが増量し12mg/週にしたところ,さらなる改善効果がみられました(図3).
バイオナイーブの症例でしたし,十分量のMTXを併用することで,アダリムマブの有効性が最大限発揮される最適な対象患者さんであったと思われます.
エコー画像でも,関節滑膜も腱鞘滑膜も炎症がかなり強かったのですが,半年くらいでかなり改善してきました(図4).
現在はステロイドフリーになり,画像的寛解を維持しています.
舟橋 私の経験した症例は,当初MTX6mgで良好なコントロールが得られておりましたが,PSLの減量を機に増悪し,すみやかにMTXを16mg/週まで増量しましたが,それでも十分な疾患活動性の鎮静が得られず,アダリムマブを導入しています.導入前にはエコーで左示指屈筋腱に腱鞘滑膜炎を,左手関節尺側と左小指MP関節掌側にドップラー所見を認めましたが,アダリムマブを数回投与したところで臨床所見と併行してエコー画像においても改善が認められております(3ヵ月経過時には残存しているドップラーシグナルも消失しました)(図5~7).
谷村 私が診ている症例では,アダリムマブ投与後早期からDASは減少し,32週くらいで臨床的寛解に達しています(図8).
これに一致するように,関節エコー画像でも血流シグナルが徐々に消失していく経過が確認できました(図9).
そのほかにも,アダリムマブ投与例ではDASでみると少しずつ改善傾向がみられるか,あるいはあまり大きな改善効果がみられないような場合でも,関節エコー画像では比較的早期から改善がみられる傾向があると感じています.そのため,私はアダリムマブ投与例では臨床評価だけではなく,関節エコーを積極的に利用したほうがよいのではないかと考えて診療を行っています.
関節エコーの普及のために
谷村 関節エコーをわが国で普及させるにあたっての今後の課題について,ご意見をお聞かせください.
岡野 まず標準化という観点では,教科書的に基準となるような画像があったとしても,実際に自分でエコーを当ててみないと理解できないことも多いので,講習会などでたくさんの医師,技師に指導,普及していくことが今後の課題だと思います.
小笠原 診断についても活動性評価についてもそうですが,エコーの有用性はまだ漠然としています.エコーを実施してみたはいいけれども,どう評価すればよいかわからない所見も多く,せっかく導入しても有効活用できない場面も少なくないと思います.ですから広まることも大事ですが,同時にエコーの有用性についてのエビデンスをさらに積み重ねて,何に有効なのか,何に有効でないのかもさらに明確にする必要があります.
谷村 たとえばJCRだけではなくて,日本超音波医学会,日本臨床検査技師会,日本医学放射線学会などほかのプロ集団にもどんどん働きかけていくのもひとつの方法だと思います.
小笠原 先日ヨーロッパでEULARのエコーコースを受講してきたのですが,そのレベルの高さに圧倒されました.熱意も知識もすごいのですが,さらに前進しこの領域をもっと発展させようというパワーもみなぎっていました.見習わなくてはいけないと思いました.
谷村 ヨーロッパなどでは,保険制度の問題やMRI,単純X線など施設において機器が充実していないという環境の問題もあるためにエコーが発達している土地柄,国柄がありますよね.そういう意味では,MRI,CT,単純X線などの設備が充実している日本はかなり良い土壌だと思います.その利点を生かして,日本発のかたちをつくってほしいです.
小笠原 エコー検査を初めてヒトに適用し報告したのはわが国でしたし,自信をもって進めていきたいですね.
舟橋 課題というより夢に近いのですが,RA診療を行う際に必ず採血やX線撮影を行うように,関節エコーもルーチンで実施するような必須のツールになっていくように,普及活動もそうですし,普及する価値があるというエビデンスを積み重ねて,なくてはならない検査になるようにしていきたいです.
谷村 先生方の今後への熱い意気込みもおうかがいし,関節エコーが今後RA診療に必須のものとなっていくだろうと改めて感じることができました.本日はどうもありがとうございました.