―リウマチ診療支援システムの開発経緯についてご教示ください.
臨床の現場では,RAの活動性評価はおもに欧州リウマチ学会が提唱するDAS(Disease Activity Score)28を用いて行われます.全身28関節における疼痛関節数,腫脹関節数,患者さんによる全身健康状態VAS(Visual Analog Scale),ESRの数値を公式に当てはめて算出するものですが,計算は複雑で手間がかかるため,医師にとって大きな負担となっていました.一方,近年RA診療に生物学的製剤が登場したことにより,RAの発症を早期に発見し,臨床的寛解に向けたタイトコントロールを行う重要性が高まっています.
これに伴い,実臨床においてもRAの疾患活動性の評価の精度が求められるようになり,複雑化した日常診療のデータを残していく必要性が生まれました(図1).
そこでわれわれは,2009年11月に予定されていた院内電子カルテ導入に合わせ,2008年10月から診療支援システムと診療データベースからなる当院独自のリウマチ管理システム“MiRAi”の開発を開始しました(図2).
本システムの開発と運用に全面的に協力いただいた医療情報管理室の香川邦彦氏の熱意と努力により,開発は驚くべきスピードで進みました.こちらが要望を伝えると香川氏は画期的なアイデアを提案されるので,そのキャッチボールを繰り返し,「簡単」で「わかりやすい」「正確」なオリジナルのシステムができあがっていきました.こうして2009年5月,“MiRAi”は生物学的製剤投与患者を対象に運用を開始,同年11月にはその対象を全外来RA患者さんに拡大しました.
―“MiRAi”の仕組みをご紹介ください.
“MiRAi”は,タッチパネル型パソコン端末を用いた患者さん向け問診支援システムであるリウマチパネル,および電子カルテと連動した医師側の診療支援システムであるリウマチノートで構成されます(表1).
RAの活動性評価作業が複雑になるのは,医師側の検査データと診察所見,患者さんの自己評価を総合する必要があったためですので,新システムでは患者さんがリウマチ科受付に設置されたタッチパネルに指で患者VAS,mHAQ,朝のこわばりなどを直接タッチ入力し,問診データとして登録できるようにしました(図3).
入力されたデータは医師側のリウマチノートと連動し,リウマチノート上で医師がクリック入力した関節評価や医師VASと総合してDAS28などの評価値が自動算出できます(図4).
さらにリウマチノートは電子カルテ上の情報を自動抽出して一覧やグラフに表示しますので,過去の治療歴・手術歴や投薬歴などの情報,検査値を転記の手間なく記録できるだけでなく,外来で説明する際にも経時変化がひと目でわかるようになっています(図5).
本システムの効果として,医師の診療の効率化,評価の標準化,患者さんへの説明が容易になることなどが挙げられますし,看護師が患者さんの病態を把握する際にも役立ちます.患者さんにおいても問診票の記入時間の短縮,治療への参加意識の向上などがみられ,当科の外来患者さん300名を対象としたアンケートでも,約9割の方から1人で簡単に,進んでタッチパネル入力ができるとの回答が得られました.また,付添のご家族が画面を見て初めて患者さんの不自由や痛みに気づくこともあり,家族間での患者さんの病状理解にもつながっています.
― “MiRAi”の今後の可能性についてお聞かせください.
“MiRAi”は運用開始からこれまで,医療関係者・患者双方の要望をもとに何度となくバージョンアップを繰り返してきました.ビジュアル面ではタッチパネルの文字を拡大して見やすくし,リウマチノートの履歴表示をカレンダー方式にするなどの改善を行い,システム面では評価できる関節箇所を全身71関節に増やし,手術箇所と術式の表示を追加しています.さらに,近年のACR/EULAR新分類基準への対応はもちろん,DAS28以外の疾患活動性指標(SDAI,CDAI,DAS28-ESR,RAPID3など)についても表示できるようにしました.現在もリウマチ診療に携わる医師達からさまざまな要望が寄せられていますが,すべてには対応できませんので,必要な改良課題に関しては,香川氏に対応いただいています.
2012年8月現在,すでに全国から10施設が見学に訪れ,うち4施設で本システムの導入が決定しました.そもそも,“MiRAi”は他の国立病院機構間で運用することを目的のひとつに開発されています.リウマチ診療データベースを用いることで,生物学的製剤を投与している患者さんの投薬歴や検査値,RA評価指標などを短時間で抽出・検索でき(図6),電子カルテで病名・年齢・罹病期間などの情報がスクリーニングできますので(図7),臨床研究や治療に応用することが可能です.
本システムを用いている施設間であれば,日常診療で蓄積された患者データを将来的に統合し,欧米のような大規模な患者レジストリーを構築することも可能だと考えています.また,本システムを用いて地域のかかりつけ医と連携し,患者情報を共有することができれば,地域のRA診療における質の向上が見込めると考えています.
―最後に,生物学的製剤の導入により,実臨床で起きたRA治療のパラダイムシフトについてご教示ください.
生物学的製剤の登場によって,RA診療は大きな変化を遂げました.骨破壊の抑止を含めた寛解が現実的な目標とされ,早期介入・早期治療・タイトコントロールが重要視されるようになったのです.RAは単一の病態ではありませんので,これまでの薬剤でコントロールできる患者さんもいれば,生物学的製剤によってしか骨破壊を抑制できない患者さんもいます.後者の患者さんにとっては福音であり,非常に大きな進歩といえるでしょう.
―アダリムマブに対する印象をお聞かせください.
TNFを対象とする4番目の生物学的製剤として登場したアダリムマブは,実際に臨床で使うと切れ味がよく,その効果を実感しています.自己注射が可能なため,働いている患者さんでも生活に合わせて使うことができますので,点滴静注から切り替えた方もいらっしゃいます.
コスト面で生物学的製剤を躊躇する患者さんもおられますが,早期介入によって十分な炎症コントロールを行えば,臨床的寛解およびバイオフリー寛解を目指すことも可能だと思います.
―ありがとうございました.
独立行政法人 国立病院機構大阪南医療センター
免疫異常疾患研究室室長
大島至郎