―大阪南医療センターリウマチ科の沿革および理念についてお聞かせください.

 大阪南医療センターは大阪府河内長野市に位置し,大阪市内から電車で約30分という立地下にあります.2004年に独立行政法人国立病院機構に移管され,「国立大阪南病院」から「国立病院機構大阪南医療センター」と名称変更しました.また当院は厚生労働省の政策医療を実施する医療機関であり,免疫異常,骨・運動器,がん,循環器の4分野でセンター化されています.免疫疾患センターの下には内科系(リウマチ科・アレルギー科・呼吸器科),外科系の診療科があり,さらに研究組織として臨床研究部が併設されています(図1).


 リウマチ科は「トータル医療」を理念としています.リウマチは全身病ですから,内科に加えて外科と整形外科の協力も必要になります.リウマチ科内科系スタッフと外科系スタッフが緊密に連携し,患者さんそれぞれの病態に応じた総合的な医療を行うことが当科の目標です.このため,内科系・外科系が共通スペースで外来診療を行い,同じ病棟で入院診療にあたることで,組織的なトータル医療を提供できる体制を整えています.




―RA診療の現状についてお聞かせください.

 当院にはこれまで,約2,000名のRA患者さんが受診されています.2009年の読売新聞アンケート調査では,当院のRA診療実績は大阪府下で第1位,2011年度のDPCによる診療実績でも大阪・奈良・和歌山の3府県内第1位の成績を誇っています.これら多数の患者さんに対して,内科系ではリウマチ科医師3名,レジデント4名,アレルギー科医師2名,レジデント1名,呼吸器科医師3名で対応しています.当院にはリウマチ学会評議員4名,指導医5名,専門医11名がおりますので,質の高い医療の提供が可能です.さらに整形外科,リハビリテーション科などの関連する診療科と連携し,融合的に診療にあたっています.

 多人数の医療スタッフが情報を共有するために,当科ではさまざまな合同カンファレンスを実施しています.1週間のスケジュールとしては,火曜日にアレルギー科・リウマチ科医師とリウマチ外科で合同カンファレンスを行い,水曜日に全医師と病棟看護師・リハビリ療法士・薬剤師で病棟カンファレンスを行います(図2).




この2つのカンファレンスは全症例を取り上げますが,アレルギー科・リウマチ科・呼吸器科の医師・病棟看護師・薬剤師で行う金曜日の合同カンファレンスでは,問題症例と新規症例のみを扱うことでカンファレンスを効率化します.これらのカンファレンスを通じて,常に多角的な視点からチーム医療を展開することが可能です.

―医療連携の仕組みについてお聞かせください.

 当院に赴任した2003年当時,センター化は形式的なものであったため,免疫疾患センター部長を兼任していた私は免疫疾患部門を実質的にセンター化し,運営していく必要がありました.まずはRA診療に関連する院内の診療科を融合したうえで,院外との地域連携を展開していくことが重要だと考えました.当院は地域の中核病院であり,マンパワーから考えて2,000名を超えるRA患者さんを継続的に診療していくことは困難です.地域の病院や診療所と連携して役割分担し,病状が安定している患者さんを紹介して診ていただくための仕組み作りが必要でした.

 ところがRA診療は専門性が高いため,患者さんの地理的な条件を優先した従来の紹介方法ではうまくいかない場合が多くみられました.診療内容や得意領域を知らないままで地域の病院や診療所に逆紹介すると,患者さんは当科に戻ってきてしまいます.こうした背景から,われわれは「顔のみえる医療」の必要性を感じ,地域のかかりつけ医の先生方との新しい診療体系の構築,および患者さんへの啓発活動を開始しました.

 まず2003年に「地域医療連携室」を設置,さらに2006年には南大阪地域の開業医の先生方の協力を得て,独自のRA診療ネットワーク「リウマチ医療を考える会」を発足しました.「考える会」のメンバーはリウマチ登録医・リウマチ学会専門医・整形外科リウマチ認定医を中心に形成されており,年2~3度定期的に行われる情報交換や勉強会,懇親会には市民病院,診療所などから約30名のメンバーが集まります.そこで地域の医師同士が顔見知りになり,お互いの診療内容などを知ることで,患者さんの病状に適したかかりつけ医に紹介できるようになり,地域の医療連携は大きく前進しました.

―医療連携を進めるためのシステムやツールについてお聞かせください.

 地域連携を円滑に進めるため,2009年にはかかりつけ医を対象に「関節リウマチ病診連携ガイドライン」(図3)を作成しました.




本ガイドラインは当科とかかりつけ医の双方が病診連携の意義とシステムの構図を理解・共有するもので,経過観察項目や紹介のタイミング,「リウマチホットライン」の使用方法,検査,薬物療法の解説などの具体的な事項を紹介し,患者さん向けのパンフレットや連携手帳,説明シート,診察依頼書(リウマチ科FAX用)も掲載しています.

 「リウマチホットライン」とは,2003年から運用されている緊急時の診療体制であり,患者さんの病状が突然悪化したとき,かかりつけ医が病院窓口を通さずに当院の担当医に連絡できる仕組みです.時間的余裕がある場合は地域連携室を通しますが,緊急の場合は当日の当番医師が直接入院や診療などの対応を行います.

 また,2008年には「考える会」のメンバーを対象に,登録制のクローズドなWeb掲示板「リウマチ掲示板」を開設しました(図4).




南大阪地域の医師が日常臨床での疑問をお互いに相談し,新しい話題をディスカッションできる“井戸端会議”の場であり,連携のためのツールとして活用されています.個人でRA診療を行う開業医は,病院医のように先輩や後輩,同僚医師に相談する場がなく,診療上の判断などで孤立しがちです.迷ったとき,「リウマチ掲示板」に書き込むことで他の医師からの情報や助言が得られ,“院外でのカンファレンス”が可能になります.また,掲示板にはE-mailアドレス欄があり,医師間での相談や受診の提案ができるため,患者さんの紹介・逆紹介もスムーズに進めることができます.ただし,診療情報をはじめとした個人情報の管理については慎重を期しています.

 さらに当科では,2009年よりリウマチ科専任看護師による連携支援を導入しています(図5).




RA専門の看護師がかかりつけ医と当科の医師の間に立ち,的確かつコンパクトな情報を伝え,その関係をコーディネートするものです.当科では現在4名が日本リウマチ財団登録リウマチケア看護師資格を取得しています.

 このほか,2011年には南大阪地域の市立堺病院と大阪リハビリテーション病院への出張外来を開始しました.大阪南地域はRA専門医が少なく,遠方の患者さんの通院が難しい状況にあります.そこで当科からスタッフを派遣して土曜日に午前診療を行い,専門的な検査や治療が必要な場合は当科に紹介,病状安定後は地域に戻すという試みを行っています.

―医療連携を進めるための患者さんへの啓発活動についてお聞かせください.

 地域での医療連携を円滑に進めるためには,患者さんに自分の疾患とその病状を正しく理解していただくことが重要です.疾患理解のための取り組みとして,当科ではRAの病状評価と学習を目的に,短期間の教育入院プログラム「リウマチ短期入院」を実施しています.基本的には早期(病初期)のRA患者さんが対象ですが,病状が進んでから当院に紹介された患者さんなど,疾患理解が必要であればどの時期でもお勧めしています.

 さらに,患者さんへの啓発活動の一環として「リウマチ教室」を年数回開催し,「リウマチの栞」を配布しています(図6).




「リウマチの栞」は当科が独自に制作したパンフレットで,日常生活上の注意点を含め,リウマチの原因,症状,検査・診断,治療法,社会保障などをわかりやすく解説するものです.また,検査データなどの疾患情報を書き込むことで患者さんが自身の病状を把握できる「リウマチ病診連携手帳」を作成,配布しています(図7).




 リーフレット「リウマチの治療を受けられている方へ」(図8)は,患者さん自身に病診連携の重要性を理解いただくために作成したものです.




病状が安定している患者さんを当科から連携先の診療所へ紹介する場合と,逆に診療所から当科に紹介する場合とがあり,患者さんが自身の経過に沿って全体の流れと診察・検査内容を把握できるようになっています.

 また,当科ではRAの活動性評価スコアを自動で計算できる「リウマチ診療支援システム」を独自開発しました.電子カルテの情報を一覧で管理するとともに,患者さん自身が待合室でその日の関節評価を問診データとして入力するリウマチパネルを導入することで,診療時間が大幅に短縮できるだけでなく,時系列で病態経過が追えるようになりました.かつてのようにカルテを捲って経過を確認する必要がなく,経過のグラフや表をひと目で確認でき,さらに当科でRA診療にかかわるスタッフ全員が情報を共有することができます.患者さんにとっても,自身の状態を把握し自らで入力しますので,治療に対する参加意識の向上にもつながっています.

 われわれはこれまで,南大阪地域の患者さんが地域でスムーズに流れる紹介・逆紹介の実現を模索してきました.今は患者さんが病院を選ぶ時代です.医療費に格差がない日本では,設備が整った大病院に患者さんが集中してしまいます.基幹病院から患者さんが離れないという課題を解決するために,われわれは患者さんの病状,生活環境,生活状況に合わせた有機的な診療体制を整え,なおかつ基幹病院にもかかりつけ医にもメリットとなるオリジナルなシステムを構築してきました.

―生物学的製剤の導入により,実臨床で起きたRA治療のパラダイムシフトについてご教示ください.

 私が大阪大学に在職していた1990年代の初め,英国との共同研究による治験で初めて生物学的製剤を使用しました.使ってすぐにその効果を実感し,生物学的製剤は次世代のRA治療薬の中心になると確信しました.日本での生物学的製剤の承認認可は欧米と10年のタイムラグがありましたが,実臨床での使用が始まると,RAは「付き合う病気」から「治せる病気(寛解あるいは治癒ヘもちこめる病気)」へとパラダイムシフトを遂げました.RA治療薬が静注剤から皮下注薬へと進歩したことで,患者さんの生活に応じた薬剤選択が可能となっています.当科は生物学的製剤による治療に積極的に取り組み,現在臨床使用可能な薬剤はすべて治験段階からかかわってきました.また現在,わが国で臨床試験中のRA治療薬については,ほぼすべてが使用できる環境にあります.

―今後,新しく取り組んでいきたい課題についてお聞かせください.

 RA治療は今後,早期発見と早期介入,そして患者さんの重症度に応じた個別治療がスタンダードになるでしょう.診療科では臨床的寛解をゴールとする治療を目指す一方で,臨床研究部においてはRAの発症そのものを予防するような研究を進めていきたいと考えています.とくに私はRAと感染症のかかわりを研究していますので,感染症からのRA発症機序を明らかにすることで,抗菌薬やワクチンによる発症抑制,超早期介入を目指すことができればと考えています.



独立行政法人 国立病院機構

大阪南医療センター臨床研究部長・治験管理室長

佐伯行彦