静脈血栓塞栓症(VTE)は重大な周術期合併症のひとつであり,人工関節置換術などの整形外科下肢の手術で発生頻度が高く,またそれらに起因する肺塞栓は致死性のものもあり,VTEの予防の必要性が強調されている.術後早期の離床やリハビリの開始およびフットポンプなどの理学的予防法については異論のないところであるが,薬物的予防法の是非についてはまだ統一した見解が得られていない.
近年,わが国でも薬物的予防法が普及してきたが,それに伴い抗凝固薬の副作用である出血の問題も重要視されている.また海外でも2011年および2012年に改訂されたAAOS(米国整形外科学会),ACCP(米国胸部内科学会)のガイドラインでは,薬物的予防法の推奨グレードは下がり,理学的予防法の推奨グレードが上がっている.
このように周術期VTE予防を取り巻く状況が変化するなかで,本特集では周術期VTEの診断,予防,発生時の対応について精通した先生方に解説をしていただく.
横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学(整形外科)教授
齋藤知行 Saito Tomoyuki
・総論/齋藤知行