投与量改訂の背景
山本 本日は「メトトレキサート(MTX)の適切な使用法」というテーマで,千葉大学アレルギー・膠原病内科の池田先生,市民の森病院膠原病・リウマチセンターの日髙先生,豊橋市民病院リウマチ科の平野先生にお話をうかがっていきたいと思います.
出席者(発言順)
山本一彦 Yamamoto Kazuhiko…司会
東京大学大学院医学系研究科内科学専攻
アレルギーリウマチ学教授
日髙利彦 Hidaka Toshihiko
医療法人社団善仁会 市民の森病院膠原病・リウマチセンター所長
池田 啓 Ikeda Kei
千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科
平野裕司 Hirano Yuji
豊橋市民病院リウマチ科副部長
投与量改訂の背景(続き)
山本 関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)治療において,MTXは標準的な治療薬になりつつあります.最近のトピックスとして,2011年2月にMTXの投与量が改訂されましたが,まずその背景について,日髙先生,お話しいただけますか.
日髙 RAに対するMTXの使用については,米国に遅れること約10年,わが国では1999年に最大用量を8mg/週として承認されました.ただし,当時はまだ第一選択薬としては認められておらず,「従来の抗リウマチ薬(DMARDs)に抵抗性を示す場合」という縛りがありました.しかし,経験的にMTXの有効性は用量依存的であることがわかってきており,また欧米では25mg/週で使用可能なことから,2002年には日本リウマチ学会からMTX承認用量拡大の要望が提出されました.
しかし残念ながら2007年に医薬品医療機器総合機構(PMDA)から,「公知申請は認められない」という発表があり,このときに「二重盲検比較試験を実施すべき」というコメントが出されました.それを受けて2008年6月に,日本リウマチ学会の前理事長である小池隆夫先生と,現理事長である宮坂信之先生が厚生労働省安全対策課に面談し,第三者解析によるMTX増量時の有効性と安全性についての十分なエビデンスが得られれば,公知申請を前向きに考えるという回答をいただけたということです.
そこで,東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターのIORRA,東京医科歯科大学薬害監視学のREAL,国立病院機構のNinJaの各ベースと,エタネルセプトの市販後全例調査のデータを情報解析研究所に依頼して解析し,それをもとに2008年11月に117ページにわたる報告書が提出されました.
報告書の結論は,MTXは必要に応じて16mg/週まで増量することにより,RA治療の有効性は向上する一方で,安全性は有意な変化を認めないというもので,2009年9月にワイス株式会社(現 ファイザー株式会社)により公知申請の手続きが開始されました.そして2011年2月に晴れてMTXの成人用量の拡大が承認され,成人のRAに対しMTX16mg/週までの使用と,第一選択薬としての使用が可能になりました(表1).
山本 公知申請が認められたことはRA診療において歴史的にも意義深いものであると思いますが,この改訂の実臨床における意義はどこにあるとお考えですか.
池田 MTXの有効性が用量依存的だということは,必ずしも研究に基づいたデータを要するものではなく,診療のなかで臨床医の先生方が感じられていたことではないかと思います.実際のデータとしては,日本ではIORRAのデータを用いて,MTXを増量すると臨床効果が増大することが統計的手法により示されています.
おそらく,これまでもMTXを増量して使われている先生はいらっしゃったと思いますが,16mg/週まで保険適応になったことで,堂々と使えるようになったことが大きな意義として挙げられます.患者さんのなかには,ルールを破って使っていることによる副作用に対する不安から,消化器症状やだるさを感じるなど,逆のプラセボ効果を示す方もいたと思います.私は増量が承認されたことによって,そのような副作用は減ったという印象をもっています.
平野 私の印象では,インフリキシマブが生物学的製剤として初めて登場したときと匹敵すると言ってもよいくらい,MTXの増量は意義が大きいと思っています.MTXは,併用で使用されるすべての生物学的製剤の効果を上げるようなベーシックなものだからです.
米国でMTXが認可されたのが1988年で,それから20年以上遅れて,やっと欧米と同じ投与量でのMTXの使用が正式に認可されました.生物学的製剤は米国と比べて約5年遅れで認可されたことを考えると,MTXの20年の遅れというのは,感慨深いものであると同時に,本当に非常に遅れてしまったという印象をもっています.
MTX増量の有効性と副作用の管理
山本 これまで,わが国で生物学的製剤を用いた治療のエビデンスを報告しても,日本と欧米で使用しているベースの薬剤,すなわちMTXの量が違うという議論がいつもありましたが,一気に同じ土俵に上がることになるわけです.
次に,MTXの増量による有効性と副作用についてお話しいただけますか.
日髙 有効性に関しては,症例ごとに適切に使用することにより,有効率,高い継続率,寛解率が得られることはわかっており,それによって関節破壊の防止が可能になり,さらにその先にあるQOLの改善・維持も見込めるようになります.最終的には生命予後の改善も期待できます.
一方,用量を増やすことにより,肝障害,骨髄障害,消化管障害のような副作用は増える可能性があります.しっかりとリスクマネジメントをしたうえで増量しないと,副作用を増やし,かえって命を脅かすことも考えられますので,正しく判断して増量を行う必要があると思います.
山本 日本では一度認可されると,何を専門にしている医師でも投与が可能になるという,良い面も悪い面もあると思いますが,MTXに関しては使い方を熟知した医師が使うことが重要だと思います.平野先生,有効性についてはいかがでしょうか.
平野 当院でもすでに100例以上増量を行いましたが,やはり用量依存的な効果はあると思います.具体的には,8mg/週から12mg/週に増量する場合には50%アップになりますが,その辺りの効果の上がり具合が大きいと感じています(図1).
池田 私は2005年4月より1年間シンガポールで診療していたのですが,7割くらいの患者さんが中国系の方で,日本人と同じような体格でした.シンガポールでMTXを使用する際は,通常7.5mgから10mgで開始し,15mgまでは多くの場合問題なく増量できていました.現在日本でMTXの増量を行っていると,シンガポール人よりは副作用を訴える方が多い気がします.必ずしもアジア人と日本人を同列に扱えないひとつの事例として,興味深く感じました.
また,MTXの上限用量にはかなり個人差があり,大規模臨床試験の結果をそのまますべての方に当てはめることはできず,個々の患者さんに応じた上限を探りながら増量していくことが大切だと思います.
山本 エビデンスを出しにくい理由として,個人差があることがひとつの特徴かもしれませんね.副作用のリスクマネジメントについては,平野先生はどのようなことに気をつけていますか.
平野 多くのガイドラインで掲げられているように,まずeGFRを確認して腎機能が良好であることを確認します.eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の症例ではMTXを投与するのは難しく,30~60(mL/分/1.73m2)くらいであれば注意して投与するようにしています.60(mL/分/1.73m2)以上であれば,積極的にMTX投与を行ってよいと思います.
ウイルス性肝炎は,ガイドラインに従って確認しています.また間質性肺炎については,胸部X線写真やKL─6を確認して,増量できるかどうかを総合的に判断しています.
山本 間質性肺炎については議論があり,間質性肺炎がないことを証明することは簡単ではなく,CTまで撮っている施設もあると聞いています.池田先生はどのように対応されていますか.
池田 ベースに間質性肺病変がある方が,MTX肺炎や感染症などのリスクが高いことは事実だと思いますが,そこにはある程度,間質性肺病変の重症度がかかわるものと思われます.軽度の通常型間質性肺炎(UIP)パターンの微細な陰影に関しては,重度の蜂窩肺と比べるとリスクは低いと思います.つまり,MTXの副作用リスクのスクリーニングにおいて,単純X線でわからない間質影を検出するためのCT検査は,ルーチンでは必須ではないと考えています.
日髙 私も同様の考えで,胸部X線写真でわかるような明らかな間質性陰影の場合は注意を要すると思いますが,RAの患者さんでは微細な陰影を有する方も意外と多く,そうするとほとんどの人がMTXを使えなくなりますので,X線写真で陰影が認められなければMTXを使用しても問題ないと考えています.
MTX増量の実際
山本 では続いてMTX増量の実際についてお話をうかがっていきたいと思います.先生方は日常診療において,MTXはどのくらいの投与量が平均となっていますか.またMTXの最大投与量とその患者さんの割合について教えていただけますでしょうか.
平野 2009年度と2010年度は平均投与量は6.6mg/週で投与患者の割合はそれぞれ46.6%,55.0%でしたが,2011年度は平均投与量は7.2mg/週に増加し,投与率も64.5%となりました.最大投与量は16mg/週です.
日髙 MTXの平均投与量は,以前は9mg/週くらいでしたが,現在は10mg/週くらいになっています.MTX最大投与量は20mg/週ですが,大部分の方の最大投与量は16mg/週です.割合は14mg/週超の症例が15%,14mg~10mg/週超が25%,10mg~8mg/週が40%,8mg/週未満の症例が20%くらいとなります.
池田 私のRA外来患者さんは平均年齢51.5歳とやや若く,女性が79.5%を占めていますが,90.7%の患者さんでMTXを使用しており,使用患者さんにおける投与量の中央値は週9.5mgです(最大22.5mg,最小2mg).いずれもその患者さんで投与できる最大量を模索した結果です.投与方法は,週6mgまでは原則分1朝,それを超えるようであれば原則分2とし,MTX量の調整をシンプルとするため,用量にかかわらず原則全例でMTX投与の翌々日に葉酸(フォリアミン®)5mg/分1朝の投与を行っています.
山本 MTXの有効性を最大限にするためには実際にどのように増量していけばよいのでしょうか.
池田 MTXは医療経済的にも非常にコストパフォーマンスが高く,RA治療の中心となる薬剤ですので,私は基本的には目標に達するまでは増量していきます.その上限はルールに従い,原則として16mg/週と考えています.ただし,その開始量,増量のペースについては,個々の症例でかなり違います.
MTXを増量する際も,開始する際と同様に,年齢,腎機能,体格,既存の肝障害の有無,アルコール摂取など,ガイドラインに沿った副作用のリスクを評価し,ハイリスクの場合は緩徐に増量することも考慮します.その一方で,関節破壊のハイリスク症例の場合は積極的な増量を考えます.活動性が高く抗CCP抗体強陽性の症例や,とくに既存の骨破壊がある症例では,多少副作用のリスクがあっても急いで増量する意味があると思います.
MTXの初期用量については,リスクの低い症例であれば8mg/週で始めていますが,リスクの高い症例であれば2mg/週から始めることもあり,症例に応じて調節しています.増量のペースについては,たとえば3ヵ月後には治療目標を達成したい,あるいは他剤を併用するか判断したい症例では,2週おきに増量することもありますし,4mg/週ずつ増量することもあります.
平野 私の場合は,初期用量は6mg/週を基本として,リスクが高ければ4mg/週としています.増量のペースについては,1ヵ月に2mg/週ずつ増量するのを基本にしています.ただ最近は,リスクが低くて活動性が高い症例では,それでは遅いと感じており,そういった症例では4週で4mg/週のペースで増量するようになってきました.
いずれにしても,リスクと疾患活動性のバランスをみて,リスクが高いのに増量しすぎる,あるいはリスクが低くて疾患活動性が高いのに増量しないという2つを避け,適切な方に適切な量をスピーディーに,ということを目指しています.
日髙 私の場合は池田先生の方法に似ていて,初期用量は基本的に8mg/週から始め,2週ごとに2mg/週ずつ増量していき,その方の最大量まで早く到達させることにしています.もちろん,リスクに応じて6mg/週から始める症例もありますし,注意すべき合併症を複数有する高齢者には4mg/週から始めることもあります.Treat to Target(T2T)の考え方に従えば(図2),3ヵ月時点でMTXの効果を判定しなければいけないので,2ヵ月くらいで最大量まで増量する必要があると考えて増量しています.
MTX増量の効果判定と副作用のモニタリング
山本 基本的な流れとしては,MTX投与開始3ヵ月後に効果判定することになると思いますが,実際にはどのように判定をされていますか.
池田 RAの患者さんの典型的な経過であれば,自覚症状,VAS,関節所見,腫脹,圧痛,炎症反応といった通常の効果判定方法でよいと思います.しかし,痛みがとても強いのに全然腫れていない,あるいは逆に非常に腫れが残っているのに痛みはなく炎症反応だけが高い,といった非典型的な症例については,積極的に超音波検査を行い,実際に滑膜炎があるか否かを確認しています.
平野 私はとくに腫脹関節がどれだけ減ったかを重視して,腫脹が残っていれば,CRPがたとえ正常化していても治療を強化することがあります.
日髙 私は一般的な総合的活動性指標を用いた評価法で,初診の際に治療目標を設定して,その後来院されるたびにDAS28とSDAIを両方確認して治療効果を説明するようにしています.合併症のない方,早期の方はSDAIの寛解が治療目標になりますし,合併症がある方は,まずは低疾患活動性を目指すというように,個々の目標を最初に提示してから効果判定をしています.
山本 総合的活動性指標の問題点は,治療が効いていてもVASが改善しない方がいるため,超音波検査などの画像所見も含めて考慮する必要があるかもしれません.疼痛の閾値は個人差がありますので,VASだけで評価すると閾値が低い方に対して治療が強すぎてしまう可能性があることを,一般臨床医の先生方にも知っていただきたいですね.
増量していきながら,肝酵素が少し変化した場合にはどのように対応されていますか.
池田 原因が何であろうと,肝酵素が動いた時点で,少なくともMTXの増量はいったん休止して,その程度によりMTXを減量するか維持するかを決めます.
重症肝障害のリスクの高い方であれば,軽微な徴候を契機にMTXを中止することを検討する場合もあります.しかしながら関節破壊のリスクが非常に高い方にとっては,MTXをどこまで増量できるかがRAの関節予後を決める場合がありますので,経過観察により改善がみられないか,あるいはさらに増量できないかどうかを慎重に見きわめるようにしています.
山本 AST,ALT上昇の許容範囲はどのくらいにしていますか.
池田 ASTやALTが2倍を超える場合には,やや慎重になります.
ただし,かなり認知されてきていることですが,B型肝炎ウイルスのキャリアの方ではMTX減量時に急激に肝機能が悪化することがあるので,B型肝炎ウイルスのプロファイルは事前に必ず把握しなければなりません.また,そのプロファイルが不明な場合は,急にMTX投与を中止しないことも大事なことだと思います.
平野 私も肝酵素については2倍を目安にしています.de novo肝炎の問題については,ベースラインでまず抗体(HBs,HBc)を測定しておき,既感染例であれば,とくに肝酵素が異常をきたしたときは必ずPCR検査をするようにしています.ほかにも薬剤性の肝炎や自己免疫性肝炎などを発症してくる例もあるので,その鑑別も必要ですが,その場合のオプションとしてはMTXの減量,あるいは服用方法の変更を検討します.分割で服用させている場合は,分1で服用させると意外と良くなることもあります.また,私はMTXが8mg/週以上の場合は必ず葉酸5mgを併用していますが,症例によっては葉酸を10mgにすることもあります.
日髙 私も肝酵素については2桁までは様子をみて,さらに上昇する場合にはもちろんMTXを減量しますが,自然に下がる方もいますので,そこで様子をみています.葉酸に関しては,通常48時間後とされていますが,症例によってはそれを24時間後にしたり,平野先生が言われたように10mgを使ってみたり,症例によって調節しています.
山本 分1にした場合に消化器症状を訴える方がいると思いますが,いかがでしょうか.
日髙 以前は分1で服用している方もおりましたが,結局,消化器症状を訴えられて分割で対応することが多かったです.消化器症状を訴えられると,処方していても実際は飲んでいないことがありますので,最近は初めから分割にすることが多いです.消化器症状が出現した場合は,制吐剤を併用して症状をしっかり抑えて,できるだけその方の最大限の用量を服用できるように工夫しています.
MTXと生物学的製剤の使い分け
山本 ここでRA治療にパラダイムシフトを起こしたもうひとつの薬剤,生物学的製剤とMTXの併用についてお話をお聞かせいただきたいと思いますが,まず先生方がRA患者さんにMTXと生物学的製剤を併用している割合,また併用時のMTXの平均投与量についてお聞かせいただけますか.
平野 最近では投与可能な症例ではMTXを12mg/週以上投与してから生物学的製剤の併用を考慮しています.アダリムマブにおいてはMTXの併用はとくに重要と考えています.
日髙 生物学的製剤を用いる場合のMTXの平均投与量は,用いない場合と基本的には大きく変わらず約10mg/週くらいですが,インフリキシマブやアダリムマブの抗TNFα抗体製剤との併用ではMTXの投与量が少し多めの印象があります.
池田 先ほど述べました通り,私は原則その患者さんでの最大量のMTX投与を心掛けています.しかしTNF阻害薬,とくにアダリムマブに代表される抗体製剤併用時には,その効果を最大限発揮し維持するために,MTXを十分に投与する必要性が高いといえます.
山本 MTXを最大用量まで使って満足できる効果が得られない場合には,次の一手として生物学的製剤の使用を考慮すると思いますが,実際はどのようにされていますか.
平野 医療経済的に考えても,まずはMTXをその方の最大量まで増量してから生物学的製剤を考えることが望ましいと思います.ただ活動性がかなり高い場合は,生物学的製剤を追加して,同時にMTXも増量していくというオプションも有用だと思います.
山本 2~3年前と比べると,生物学的製剤に対する心理的なハードルは下がってきた印象がありますが,患者さんの反応はいかがでしょうか.
平野 当科でも3割弱の方に生物学的製剤の投与歴があります.最近ではさまざまな情報が入手できますし,とくにリウマチ友の会の方などはかなり詳しく知っている方もいらっしゃいますので,きちんと理解したうえで新規に生物学的製剤を導入するケースも増えています.ただ一方で,薬剤費が問題となることも少なくありません.
山本 日髙先生はいかがですか.
日髙 早めにMTXの増量をして,3ヵ月時点で評価して中疾患活動性が残っている場合は,患者さんの状態で生物学的製剤も加えたほうがよいと考えれば追加しますし,DMARDsの併用で効果が期待できそうであればDMARDsを追加するという流れにしています.
ただ,やはり副作用の問題で,たとえば月に2mgくらいずつしか増量できない方の場合は,3ヵ月時点で評価して,早く炎症を止めたほうがよいと判断すれば,その時点で先に生物学的製剤を加えて,その後さらにMTXを増量します.もちろん,最終的には寛解を維持しながら,できれば状況をみて生物学的製剤を中止して,経済的な負担を軽減することを考えます.
池田 私は,まずはMTXで治療できるところまで治療することを原則にしていましたが,今のお話は大変参考になりました.スピードが重視される場合には早めに生物学的製剤を追加するという選択肢もあり得るということですね.
山本 大学病院の場合はMTXが使用できない方が比較的多いため,従来のDMARDsではなかなか抑えられない活動性の高いケースでは最初から生物学的製剤を投与することもあります.
池田 私はMTXに対するこだわりが強いので,まずはなんとかMTXを使えないかと考えるのですが,明らかに使用できない方がいるのも確かです.そのような方で関節破壊のリスクが高い方では,最初から生物学的製剤を投与するという選択肢もあるということですね.
山本 MTXの投与が必須ではない生物学的製剤を考えることもひとつの選択肢ですね.とくに生物学的製剤のなかではTNF阻害薬が日本でも最もよく使用されていますが,この効果を最大限に得るためのMTXとの関係性について,平野先生,お話しいただけますか.
平野 TNF阻害薬とMTXは切っても切れない関係だと言えると思います.われわれは名古屋大学のグループでアダリムマブの効果について研究しており,MTXに関連したこともいろいろと調査しています.そのなかで,通常はMTX,アダリムマブという順番で治療を行うわけですが,MTXの効果が不十分な症例では,アダリムマブを追加しても十分な効果が得られないというデータを得ています(図3).
つまり,MTX治療が有効だった症例にアダリムマブを追加した場合には,寛解の達成・維持まで達していますが,不十分な状態でアダリムマブを追加した場合は効果が十分に出ていないのです.したがって,MTXによる治療である程度効果を得て,そこにTNF阻害薬が加わることで100%の効果が出るのだと思います.先ほど示したようにMTXの効果は用量依存性の面が大きいので,有害事象に気を配りつつ,MTXを増量してMTXの効果を獲得したのちに,アダリムマブをはじめとした抗TNF製剤の追加を行うことは,最も確実な治療オプションであると考えられます.
日髙 私も同じ考えで,MTXをしっかり個々の最大用量まで使用したうえで生物学的製剤を追加することにより,寛解率を高めることができると実感しています.
たとえば当院のデータでは,MTX投与の有無に分けて1年後のDAS28寛解率を比較してみると,MTXを使用していない場合は25%だったのに対して,使用している場合は66%です.さらに高用量では73%がDAS28寛解基準に達しています.また,高用量でのSDAIおよびCDAI寛解達成率は,いずれも69%でした (図4).
それから,抗体製剤を使用した場合には自己抗体が出現する可能性がありますので,MTXを十分使うことにより自己抗体産生を抑制し,副作用を減らすことも期待できると思います.
今後のRA治療におけるMTXの位置づけ
山本 今後のRA治療においては,もちろんMTXだけでなく,また現在使用可能な生物学的製剤だけでなく,新しい生物学的製剤も次々に出てくると思います.そのようななかでMTXを中心に考えたときに,RA治療はどのようになっていくのでしょうか.
池田 MTXがRA治療のアンカードラッグであるという位置づけは変わらないと思いますので,まずMTXを十分に使うことは現在と同じでしょう.今回,MTXの上限用量の改訂によりその土壌が整いましたので,今後それがいかに浸透するかが日本のRA診療全体のアウトカム向上につながると思います.その意味で,改訂に合わせて発行された「MTX診療ガイドライン」を普及させていくことが非常に重要になると考えています.
日髙 私もアンカードラッグであるMTXをしっかり使っていくことが非常に重要だと考えています.極端なことを言えば,「RA治療はMTXに始まりMTXに終わる」もしくは「MTXを制するものはRA治療を制する」と言えるかもしれません.一般臨床医の先生方でも,RAの治療を行うにあたって,MTXの使い方や効果,副作用を熟知したうえで治療を行っていただければ,RAの患者さんの未来はさらに明るくなるのではないかと思います.
平野 生物学的製剤は次々と市場に出ていますので,先生方はかなり使い慣れてきていると思いますが,MTXは日本では20年遅れてやっと欧米並みに使用できるようになったので,日本のRA治療のなかで最も遅れているのがMTXではないかとも感じます.
専門医の先生方はもちろん問題ないのですが,RAは必ずしも専門医ばかりではなく,日本の津々浦々で,非専門医の先生も診ていることが多い疾患ですので,そういったところにMTXの適切な使い方を普及していくことで,底上げができると思います.
山本 日髙先生のクリニックは宮崎市内にあり,たとえば東京と比べるとリウマチ専門医の先生の数は少ないと思いますが,MTXによる治療を行ううえで病診連携などの工夫をされていますか.
日髙 私の場合は,基本的には遠方から来院される方に関しては,紹介された先生のところに戻っていただくようにしています.遠方にもかかわらず当院に通院できる方は,落ち着くまで当院でRAの活動性をコントロールし,安定したところで地元の紹介元の先生へ逆紹介をし,当院でも定期的にフォローアップさせていただくという形をとっています.しかし,遠隔のため当院への通院が困難で,MTXの必要な方に関しましては,紹介状の返書に,MTXの使い方について,増量のペースや方法,あるいは副作用とその対応などを具体的に詳しく書くようにしています.
そうすると,しっかり指示通り行って下さる先生はその通りに進めて下さり,たとえば3ヵ月後に当院に来院されたときはとても良い状態になっている場合もありますし,このような症状が出たのでこの用量で止めています,という状況のこともあります.ただ,特別に変化がないのにもかかわらず,返書の通りにやっていただけないこともあります.その場合は治療がうまくいきませんので,患者さんと話し合って,可能でしたら安定するまでは当院に通院していただき,そののちに紹介元にお願いすることもあります.
山本 確かに増量のペースなどは専門医でないとなかなか難しいところがあると思います.そこは専門医に任せていただき,定常状態になったら,かかりつけの先生に診ていただくこともひとつの方法ではないかと思います.
それから,リウマチ専門医とかかりつけ医の先生方以外の医療スタッフにも,MTXの服薬方法やMTXを使用されている方の状態が突然悪くなった場合の対応など,多くの情報を共有することが全体の安全につながると思います.
本日は貴重なお話をお聞かせいただきましてありがとうございました.