進行期股関節症への関節温存術は前・初期股関節に比較してその術後成績が劣るため,適応を十分に吟味する必要がある.進行期股関節症例に対して行った寛骨臼移動術の術後成績を検討し,その適応として,①40歳以下,②肥満がなく,③進行前期までの症例,そして関節形態は④外転位で適合性が向上し,⑤atrophic OAでないことの5点を挙げたい.股関節外科医は,進行期を一括りにして,安易にTHAばかりを適応すべきではない.とくに若年者に対しては関節温存の可能性を探るべきである.
緒 言
寛骨臼移動術(transposition osteotomy of the acetabulum;TOA)は外側アプローチによるperiacetabular osteotomy(PAO)の1つであり,臼蓋形成不全股に対して寛骨臼を球状に掘り出して回転移動することにより骨頭の被覆を改善し,関節症の進行を防止しようとする手術法である1)(図1).
その特徴は,大転子を切骨反転して骨切り部を大きく展開すること,および骨切り部への大きな骨移植による骨頭の引き下げをしないことである2)3).
PAOはおもに前・初期変形性股関節症(股関節症)を適応としており,関節軟骨を一部消失した進行期股関節症の術後成績は劣らざるを得ない.当然ながら人工股関節置換術(total hip arthroplasty;THA)の成績に比較し得るものではない.ここでは進行期股関節症の術後成績を再検討し,本病期に対する本術式の有用性を考察してみたい3)4).
1 適応
他のPAOと同様,その適応は股関節症のうち明らかな臼蓋形成不全を伴い,病期が比較的早期である症例が望ましい.強い骨頭変形がなく,外転位X線像で関節適合性が良好なものが良い適応となる.年齢は50歳代までを目安としている.
対象となる病期は前および初期股関節症であり,進行期では若年例で骨頭変形が少なく,外転位で関節裂隙が開大して適合性が改善する例に限って適応となる.ペルテス病様変化後の扁平股や三角形の骨頭などの骨頭変形例では,外転位で適合性がかえって悪化する症例が存在する.そのような場合,外反骨切り併用により良好な適合性を保つことが可能であれば本法の適応となる.
2 手術の実際 2)(図2)
1.手術体位と皮切
体位は患側を上にした完全側臥位で行う.上前腸骨棘の遠位から大転子遠位端の2~3横指後方へ至る後上方凸の弓状切開を行う.
2.大転子切骨による展開
前方:大転子から上前腸骨棘まで中殿筋-大腿筋膜張筋間を剥離し,関節包の前方を展開する.
後方:短外旋筋群を露出・切離して後方の関節包~臼蓋~坐骨結節部を展開する.
大転子の切骨と上方の展開:栄養血管の通る転子間稜に気をつけながら,大転子の厚みが1.5cm程度になるように切骨する.切骨した大転子と中・小殿筋を一塊として頭側に引き上げながら関節包との間を剥離し,腸骨外壁の骨切り部を露出する.専用のレトラクターを用いて外転筋群を頭側へよける(図3).
3.骨切り線のマーキング
関節包を一部切開し,小エレバを関節内に挿入して関節面から20mm頭側の位置にマーキングする.この作業によって移動骨片の厚みを常に一定に保つことができる(図3).関節直上20mmの部位に弯曲ノミを関節包と並行になる角度で打ち込み,X線コントロールを撮影する(図2).ノミの高さ,打ち込み角度を確認する.後方では骨性臼蓋縁と大坐骨切痕の中間点を通り,坐骨の無名溝に終結する円弧状の骨切り線をマーキングする.
4.骨切り
ノミによる腸骨の骨折を防ぐために,2mm程度のK-ワイヤーにて骨切りラインに10ヵ所ほど穴を開けてから,平ノミで外側骨皮質を切骨する.その後,前方は下前腸骨棘付近から,後下方は坐骨無名溝まで,寛骨臼を球状に掘り出すように骨切りを行う.関節包と弯曲ノミの距離を一定にするように心がけると,関節面に切り込むことなく,関節をくるむように切骨できる.弯曲ノミは女性ではおもに40mm,男性では45mmをおもに使用している.
恥骨の骨切りは股関節を屈曲して大腿直筋を弛め,直筋と関節包とのあいだを鈍的に剥離して恥骨の基部に到達する.腸恥隆起部のやや外側で幅15~30mmの平ノミを用いて骨切りする.
5.骨片の移動・回転と固定
移動・回転の目安となるK-ワイヤーを骨片に立て,臼蓋全体が前開きとなるように外前方へ回転するように移動する.前方被覆が浅い場合には前方へも5~10mm程度移動している.X線コントロール(図2)にて荷重部の水平化と被覆,骨頭の内方化,関節裂隙の状態などを評価して,最終的には3本の皮質骨螺子で固定する.
3 手術成績
1.前・初期股関節症と進行期股関節症の比較
まず全体的な成績および病期の影響を検討した.
寛骨臼移動術後2年以上18年(平均9.9年)経過観察し得た121例121関節(前股関節症:25関節,初期股関節症68関節,進行期股関節:28関節)の術後成績を調査した.全体の成績では末期股関節症への進行またはTHAへの移行をエンドポイントとした場合,その生存率は10年で94.1%,15年で88%であった(図4).
それらの成績は術前病期に大きく影響され,前股関節症では生存率100%,初期股関節症95.6%であるのに対し,術前進行期股関節症の群では生存率64.3%であった(図5)4).
すなわち,進行期股関節症ではその適応を十分に吟味する必要がある.
他の報告でも同様の成績が多く,術後成績に影響を及ぼす因子のなかで,術前の股関節症病期が最も大きな因子であることは衆目の一致した見解である.西野らは寛骨臼回転骨切り術を施行後,10年以上の経過観察が可能であった128例130関節(前股関節症と初期股関節症98関節,進行期32関節)に対して,JOA スコアは前股関節症と初期股関節症で術前平均74.2点が術後5年で98.3点,術後10年で93.5点となり,進行期では術前平均61.3点が術後5年で87点,術後10年で81点であったと報告している5).
武石らは,前股関節症と初期股関節症47関節,進行期80関節,末期36関節に対して寛骨臼回転骨切り術を行い,平均147.8ヵ月の経過観察において,JOA スコアは前股関節症と初期股関節症が術前平均76.3点から最終経過観察時で平均89.3点,進行期で67.7点が82.3点,末期で53.4点が71.3点であった.JOA スコアが70点未満またはTHA移行時をエンドポイントした生存率において最終観察時で前股関節症と初期股関節症が97.9%,進行期で80.8%,末期で50.0%であったと報告している6).
2.進行期股関節症例の検討
次に,進行期股関節症例の結果を検討してみたい.一般に進行期股関節症に関節温存術を適応する場合,最低10年はTHAへの移行なく経過することを医師,患者ともに望んでいるのではないだろうか.また,関節裂隙は広範に消失していながら,まったく疼痛のない例も存在する.末期関節症への進行をエンドポイントにした場合,術後数年でTHAに移行した例も上記のような例も同じ成績不良群になってしまい,正確な評価とは言いがたい.そこで,ここでは筆者の独断で以下の例を成績不良とした.
①10年以内のTHAへの移行
②10年以内に疼痛点数20点以下,かつ末期股関節症への進行
③臼蓋骨片圧潰
5年以上(5~20年,平均10年2ヵ月)経過観察した術前病期が進行期の52例52関節(平均手術時年齢:47.6歳)について調査を行った.そのうち,10年以内のTHAへの移行は6関節,移動骨片の圧潰と思われた例は2関節存在し,計8例8関節が成績不良と判断された.術後10年における生存率は84.6%であった.影響する因子を検討したところ,単変量解析ではBMI,術前病期(進行前期・後期)が有意な因子として抽出され(表1),多変量解析ではBMIが大きいほど,術前病期が進行後期であること,atrophic OAであることが有意な因子であった.
それぞれのオッズ比はBMI:1.7倍,進行後期:18.6倍,atrophic OA:16.2倍であった(表2).
すなわち,進行期例でもBMIが大きな肥満体型,関節裂隙が消失している例,さらに骨棘形成が少ないにもかかわらず関節裂隙の一部消失がみられるatrophic OAの例は成績が不良であった.
Yasunagaらは進行期の43例43関節に対して寛骨臼回転骨切り術を施行後,平均8.5年経過観察において関節裂隙は術前が平均2.2mm,術後で2.5mmであった.骨嚢胞は術前23関節に認めたが6関節は消失した.逆に20関節は術前に骨嚢胞がなかったが,最終観察時には4関節に骨嚢胞が存在した.関節症進行に関連する因子として,術後の適合性,術前の2.2mm以下の関節裂隙,術後の2.5mm以下の関節裂隙に有意差を認めた.単純X線像上の関節症の進行をエンドポイントとしたKaplan-Meier生存曲線では10年で72.2%であったと報告している7).
4 長所と短所
寛骨臼移動術に限らず,関節温存術の長所はTHA関連の合併症がないことであろう.圧倒的な除痛効果をもたらすTHAではあるが,THA特有の合併症である脱臼,感染,弛みなどの発生を0%にすることはできない.THAが有限であるがゆえに,常に患者の年齢を考えて治療を行う必要がある.関節温存術では「もし症状が悪化すればTHA」というバックアップがあることは事実であり,大きな長所であろう.また,脱臼に動作制限を考えなくてよいことは患者側にとっても大きな長所である.
短所は進行期股関節症に対する術後成績は前・初期股関節症に比較して不安定であることである.われわれの報告および他の報告でも10年生存率は70~80%程度であり,20~30%の例は10年以内にTHAに移行する可能性を有していることである.手術的治療をするのであれば最低10年間はTHAへの移行を回避すべきであり,THAの長期耐用性が向上している現在,進行期のなかでも十分に適応を吟味する必要がある.年齢が若いからという理由だけで適応にすべきではないと強調したい.今回の検討の結果,進行期のなかでも進行後期では明らかに術後成績が劣っており,適応としては進行前期までの症例であろう(図6).
具体的には関節裂隙がわずかでも残っている例に適応すべきである.Hasegawaらは関節裂隙幅を測定し,術前関節裂隙幅が2mm未満の例では術後成績が劣ることを報告している8).
さらに外転位適合性は適応を決めるうえで重要な点である.外転位で関節裂隙が開大して適合性が改善する例に限って適応となる.骨頭変形例では,外転位で適合性がかえって悪化する症例が存在する.Yasunagaらはこのような外転位での関節不適合は有意な予後不良因子であったことを報告している9).このような場合は,他の関節温存術(外反骨切り併用キアリ骨盤骨切り術など)をまず考えるべきであろう.
結 語
THAの長期耐用性が向上している現在,進行期股関節症への関節温存術の適応は十分に吟味する必要がある.確かに進行期股関節症の術後成績は前・初期股関節に比較して劣るが,進行期を一括りにして,安易にTHAばかりを適応すべきではなく,まずは関節温存の可能性を探るべきである.
上記の結果より,筆者は進行期股関節症に対する寛骨臼移動術の適応として,①40歳代までで,②肥満がなく,③進行前期までの症例,そして関節形態は,④外転位で適合性が向上し,⑤atrophic OAでないことの5点を上げたい.もし適応でなければ,外反骨切り術やキアリ骨盤骨切り術の適応を検討したい.
References
1)西尾篤人,新宮彦助:先天性股関節脱臼に対する髀臼移動による観血的整復術.日整会誌30:483,1956
2)中島康晴,藤井政徳,山本卓明ほか:寛骨臼移動術─術式の工夫と手術成績─.Hip Joint 37:52-58,2011
3)野口康男,佛淵孝夫,神宮司誠也ほか:亜脱臼性股関節症に対する寛骨臼移動術の成績.整形外科と災害外科45:56-63,1996
4)Fujii, M., Nakashima, Y., Noguchi, Y. et al.:Effect of intra-articular lesions on the result of periacetabular osteotomy for symptomatic hip dysplasia. J. Bone Joint Surg. Br. 93:1449-1456, 2011
5)西野 暢,松本忠美,兼氏 歩ほか:寛骨臼回転骨切り術の長期成績.Hip Joint 27:30-34,2001
6)武石浩之,梅原新英,池田 寛ほか:寛骨臼回転骨切り術 長期成績からの適応の再検討.Hip Joint 25:18-22,1999
7)Yasunaga, Y., Ochi, M., Shimogaki, K. et al.:Rotational acetabular osteotomy for hip dysplasia:61 hips followed for 8-15 years. Acta. Orthop. Scand. 75:10-15, 2004
8)Hasegawa, Y., Masui, T., Yamaguchi, J. et al.:Factors leading to osteoarthritis after eccentric rotational acetabular osteotomy. Clin. Orthop. Relat. Res. 459:207-215, 2007
9)Yasunaga, Y., Ochi, M., Terayama, H. et al.:Rotational acetabular osteotomy for advanced osteoarthritis secondary to dysplasia of the hip. J. Bone Joint Surg. Am. 88:1915-1919, 2006
九州大学大学院医学研究院整形外科学准教授
中島康晴 Nakashima Yasuharu
九州大学大学院医学研究院整形外科学教授
岩本幸英 Iwamoto Yukihide
・DEBATE 1 キアリ骨盤骨切り術/大川孝浩
・DEBATE 2 寛骨臼移動術の適応と限界/中島康晴 ほか
・コメント/吉川秀樹