Background
メトトレキサート(MTX)は関節リウマチ(RA)の治療薬として,わが国では米国に遅れること10年,1999年に承認された.しかし,添付文書上での成人RA患者に対する承認用量の上限は8mg/週であり,適応は他の抗リウマチ薬で効果が得られなかった症例に限られていた.一方,2002年に日本リウマチ学会はアンケート調査結果をもとにして承認用量増量を公知申請で行うよう厚生労働省に要望した.しかし,医薬品医療機器総合機構(PMDA)はデータ不足を理由に,二重盲検比較試験を行う必要性があるとした.これに対して,日本リウマチ学会は,わが国の3つのコホート研究(IORRA, REAL, NinJa)とエタネルセプト市販後全例調査をもとにして解析を行い,「MTXは必要に応じて週16mgまで増量することにより,RA治療の有効性は向上し,安全性には有意の変化は認めない」という調査報告書を提出した.これを受けてMTXの成人用量の公知申請が行われ,2011年2月に承認された.これにより,MTXを必要に応じて週16mgまで使用すること,第一選択薬剤として使用することが可能となった.
アンケート実施要項
●対象→日本整形外科学会認定リウマチ医(整形外科医)100人,日本リウマチ学会認定医(内科医)100名
●方法→FAX,E-mail調査
●有効回答→整形外科医60(60%),内科医60(60%)
●実施日→2011年9月1日~10月5日
Concept【各設問の狙い】
MTXの有効性は用量依存的であり,しかも関節破壊阻止効果のみならず,生命予後改善効果があることも明らかにされている.しかし,MTXの副作用も用量依存的であり,肝障害,骨髄抑制,間質性肺炎などの重篤な副作用が起こることもある.これら重篤副作用に対するリスクマネジメントを適切に行わないと医事係争になりかねないことから,従来は一部の開業医の先生,整形外科医の先生では,ともするとMTXの使用を回避したり,週4mg以下の低用量で使用する傾向がみられた.欧米ではMTXがRA治療の第一選択薬剤であること,開始用量が10~15mg/週で使用上限量が20~25mg/週である事実とは対照的であり,わが国のRA治療のグローバリゼーションの必要性が強調されてきた.
このような状況のなかで,わが国のリウマチ診療に携わる専門医のMTXの使い方が変遷を遂げているかどうかをアンケート調査で確認するのが目的であった.
Q1 どのようなケースでMTXを増量されますか.ひとつお選びください.
ナビゲーター解析
MTXを増量する場合は,内科および整形外科とも「疾患活動性」が圧倒的多数を占めていた.とくに「MTXは疾患活動性を抑えるためのアンカードラッグと考えている」,「T2Tに則って疾患活動性の評価をしながら増量する」などのコメントがみられたことは喜ばしい.ただ,その一方で,「なるべく増量を避け,週8mg以上は生物学的製剤の方向で考えている」とのコメントもあり,週8mg以上の増量に抵抗感を示している医師もいるようである.
Q2 MTXを増量する際,どのように増量されていますか.ひとつお選びください.
ナビゲーター解析
MTXの増量幅は,内科では2mgずつが83.3%,4mgずつが5.0%であったのに対して,整形外科ではそれぞれ90.0%,3.3%であり,両者の差異はほとんど認められなかった.添付文書では,「4~8週間投与しても十分な効果が得られない場合にはメトトレキサートとして1回2~4mgずつ増量する(増量する前には,患者の状態を十分に確認し,増量の可否を慎重に判断する)」と書かれているが,MTX診療ガイドラインではこの点については言及していない.疾患活動性がきわめて高く,禁忌例や慎重投与例ではない場合には4mgの増量も可能ではあるが,日常診療での通常の増量幅は2mgとするのが妥当であろう.
Q3 MTXを増量する際,どの程度の間隔で増量されていますか.ひとつお選びください.
ナビゲーター解析
MTXの増量間隔は,内科では2週が8.3%,4週が43.3%,8週が21.6%であったのに対して,整形外科ではそれぞれ10.0%,53.3%,18.3%であり,これも両者に差異は認められなかった.MTXの増量間隔が長ければ,当然寛解に入るまでの期間も長くかかり,その間に関節破壊が進行してしまう場合もある.「多くは4週ごとだが,疾患活動性が高い場合には2週ごと」というコメントもみられ,急速増量(rapid escalation)の意義が少しずつ浸透してきていることがうかがわれる.
Q4 MTXを増量する際,葉酸を投与されていますか.ひとつお選びください.
ナビゲーター解析
葉酸の投与は,内科では「必ず投与」が33.3%,「ほとんど投与」が41.6%であったのに対して,整形外科ではそれぞれ26.7%,31.7%であり,内科のほうが葉酸を使用する傾向がやや顕著であった.葉酸の投与は,消化器障害(口内炎,食思不振),肝障害,血球減少などの予防にはきわめて有効である.高齢者,腎機能障害例,MTX 8mg/週使用例などでは,全例において葉酸の併用投与が望ましい.
Q5 MTX投与によっても効果不十分と思われるケースでは,どの時点で生物学的製剤を併用されることが比較的多いですか.ひとつお選びください.
ナビゲーター解析
MTXと生物学的製剤の併用に踏み切るときのMTX用量について,内科と整形外科の差は認められなかった.「通常は週8mgで生物学的製剤の投与を考慮する」というコメントに代表されるように,比較的MTX投与量が多くないうちに生物学的製剤投与に踏み切る例が少なからずみられた.一方,欧米ではコストパフォーマンスを考慮して,MTX週20~25mg不応例に対して生物学的製剤が投与されることが多く,生物学的製剤を開始するときのMTX用量はわが国よりはるかに多い.ただし,前述のごとく,欧米でのMTX増量のスピードは早く,rapid escalationと呼ばれている.
Q6 MTX増量に関して,どのような副作用を経験されていますか.(複数回答可)
ナビゲーター解析
MTX増量に伴う副作用の種類についても,内科と整形外科との差は認められなかった.また,肝機能障害が内科,整形外科とも第1位と多かった.一方,間質性肺炎については,内科で全体の第5位の13.9%であったのに対して,整形外科では全体の第3位の17.2%とやや多い傾向がみられた.間質性肺炎がみられた場合には,MTXをはじめとする薬剤誘発性の場合に加えて,原疾患の活動性が高い場合,ニューモシスチス肺炎などの感染症による場合もあり,鑑別が重要である.
アンケート結果にみるRA治療における整形外科と内科ドクター像~MTX投与量の増量によるRA治療の実際~
「MTX 投与量の増量に関する新提案」 by Miyasaka Nobuyuki
●疾患活動性が高い場合には,可能な限りMTXの増量を考慮する.ただし,患者の年齢(65歳以上か否か),腎機能,肝機能,造血機能などを慎重に評価すべきである.
●増量幅は通常は2mgずつである.ただし,疾患活動性が高く,骨びらんが急速に出現している若年例などでは,4mgの増量を検討してもよい.その場合には,葉酸を併用することと,定期的な血液検査が必須である.
●MTXの増量があまりに緩徐である場合には,有効性が発揮されるまでに時間がかかり過ぎ,関節破壊が進行してしまう場合もある.したがって,十分な効果発現がみられるまで,できる限り早くMTXを増量することが必要である.
●葉酸の投与はMTX週8mg以上の投与では全例に行う.
●高齢者,腎機能障害例などでは,週6mg投与時から葉酸の併用を行う.
●MTX増量時に重篤な副作用発現が疑われた場合には,まずMTXを中止する.MTXの効果は少なくとも2週間は継続する.
●MTXを十分量投与しても有効性がみられず,関節破壊の進行が予想される場合には,生物学的製剤の併用を検討する.
ナビゲーター
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科学教授
宮坂信之 Miyasaka Nobuyuki