Summary
膵島は,高密度の毛細血管網が走行する血流に富んだ器官である。膵島を構成するβ細胞などの膵島内分泌細胞は,毛細血管と構造的にも機能的にも非常に密接な関係を保持している。血管は膵島細胞に栄養や酸素を供給し,代わりに膵島細胞から分泌された内分泌ホルモンを標的器官へと輸送する。さらに血管内皮細胞は,膵島機能を最大限に生かすため基底膜を産生し,β細胞の機能を調節している。これらの血管と膵島細胞間の相互作用のバランスが崩れると,糖尿病の発症につながる可能性がある。
本稿では,成長,妊娠,インスリン抵抗性などインスリン需要が高まる状態における血管とβ細胞間のダイナミックな相互作用に焦点を当てる。さらに,インスリン分泌,膵島機能,末梢へのインスリン輸送における血管の役割と,これらの過程における血管内皮細胞,そしてこれまであまり注目されていなかった血管周皮細胞の役割について注目する。
Key words
●膵島 ●血管 ●内皮細胞 ●周皮細胞 ●糖尿病
1 膵島構造形成における血管の役割
血糖値のコントロールや,1型,2型糖尿病の発症に対する膵ランゲルハンス島(膵島)を構成するβ細胞の機能については,長年研究が進められてきた。膵島は,インスリンを産生するβ細胞が中央部,グルカゴン(α細胞),ソマトスタチン(δ細胞),膵ポリペプチド(PP細胞),グレリン(ε細胞)を産生する非β細胞が辺縁部に位置するマントル・コア構造をとる。膵島を構成するこれらの内分泌細胞の分布については,従来,ラット,マウス,ブタなどではマントル・コア構造をとるが,ヒトやサルではβ細胞と非β細胞が混在し,マントル・コア構造をとらないという,動物種によって違いがあると考えられてきた1)。ところが2010年,ヒトの膵島はマントル・コア構造をとる小型の膵島が折りたたまれて1個の膵島が形成されることが報告されている。そして形態学的解析により,折りたたまれる過程でα細胞とβ細胞が血管との密接な関係を保っていることが示されている。この報告により,動物種にかかわらず,膵島はマントル・コア構造をとることが明らかとなった2)。このように,動物種にかかわらず膵島が共通した構造をとるということは,α細胞-β細胞のような膵島細胞間での血流を介したパラクライン相互作用を促進するような膵島の生理学的機能において,膵島構造の維持が重要であることを意味している。
2 膵島における血管の走行
膵島機能における血管の役割を理解するためには,膵島の血管構造を理解することが必要である。成熟膵島は,膵島ホルモンを血中に効率よく分泌させるため,毛細血管網が高密度に走行する非常に血管に富んだ器官である。膵島の毛細血管は,外分泌組織の約5倍の密度で分布している。また,膵臓における膵島の割合は約1%であるのに対し,血流は膵臓の全血量の約7~10%を占める。膵島には静脈と1~3本の動脈が走行し,大部分の膵島の血流では動脈がマントル領域を通過して膵島内に入り込み,膵島中央領域のβ細胞集塊に到達した後,毛細血管に分岐するというinner-to-outerの血流をもつと考えられている。したがって,膵島への血流が最初に通るのがβ細胞である3)。β細胞は膵島内皮細胞と密接に関係しており,血流からは1細胞以上離れることはない。膵島の毛細血管は有窓性に富み,周りを取り囲む外分泌組織の10倍の窓(fenestra)をもつ4)。膵島の血管系がこのような構造をとるのは,栄養や成長因子の輸送,そして血中のグルコースを効率よく感知するためであると考えられる。そして,膵島の血流は多くの代謝因子,非代謝因子によって制御されている。たとえば,グルコースは膵島の血流を2倍に増加させる。高濃度のインスリンは,高インスリン血症の後,結果として起こる低血糖により血流を減少させる。さらに,アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate;ATP)は膵島のA1アデノシン受容体を介して血流を増加させる。ATPの血流への影響は前述した膵島の血流におけるグルコースの作用と一致しており,膵島細胞の代謝が上がることにより膵島の血流が増加することを意味している。その他の栄養やホルモンも,血管の拡張と収縮の相互作用によって膵島の血流に間接的に作用する4)。したがって,膵島の血流はさまざまな栄養と成長因子によって厳密にコントロールされている。
3 膵島発生における血管の役割
膵島の発生初期から成熟膵島の機能に至るまで,膵島内分泌細胞と内皮細胞は密接な関係を保っている。血液由来のシグナルと内皮細胞由来のパラクラインシグナルは,発生から成体に至るまで,つまり膵島発生,内分泌細胞の分化,膵島機能の維持,特にインスリン遺伝子の発現,ブドウ糖応答性インスリン分泌に必須である(図1)。
発生過程において,内胚葉の膵臓予定領域は背側大動脈のすぐ近くに位置し,それが膵臓の分化とインスリンの発現に重要である。ヒトやマウスにおいて,膵臓は腸管内胚葉由来の腹側膵と背側膵の2領域から形成される。発生初期,背側大動脈の内胚葉への直接的な作用として,動脈は背側膵の間葉の発生を誘導し,間葉は背側膵に線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor;FGF)10のシグナルを伝える。発生過程の膵臓にPdx1プロモーターで血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)-Aを過剰発現させると,膵島数および膵島面積が3倍に増加,発生過程の腸管における異所性のインスリン発現,そして膵臓の血管過形成が誘導される。In vitroの実験で背側大動脈を背側膵と共培養すると,背側膵のbuddingとインスリン,グルカゴンに加えて,Pdx1やPtf1aのような転写因子の発現が誘導される5)。転写因子Ptfは大動脈由来のシグナルによって発現が誘導され,Pdx1を発現する膵内胚葉のbudding,インスリンやグルカゴンの発現を促進する6)。膵臓のbuddingに次いで,内皮細胞はスフィンゴシン-1-リン酸(sphingosine-1-phosphate;S1P)を介して間葉細胞の増殖を促し,背側膵内胚葉の発生とbuddingを促進する7)8)。内皮細胞を欠如した胎仔では,背側大動脈からのシグナル欠損により背側膵の発生が阻害される。このような膵島内皮細胞と内分泌細胞間の密接な関係は,出生後も持続する。たとえば,生後1週間で膵島内分泌細胞は著しく増殖する。この時期,血管内皮細胞の増殖も活発に起こり,膵島内血管密度の著しい増加が誘導される4)。膵臓のbuddingの開始には,内皮細胞からの合図が非常に重要となる。このように,内皮細胞は胎生後期から出生後早期にかけて,膵臓および膵島の発生にきわめて重要である。一方,腹部静脈の近傍に腹側膵が発生することが知られているが,詳細は不明である9)。
4 膵島における血管細胞―膵島内分泌細胞間の相互作用―
膵島内分泌細胞と内皮細胞間の密接な関係は,膵島発生だけでなく成熟膵島の機能においても重要である。背側大動脈によって膵臓の発生が誘導された後,内分泌細胞はVEGF-Aを分泌し,内皮細胞を活性化させる。そして,膵島血管叢の形成が誘導される10)。VEGF-Aは,膵島毛細血管の発生だけではなく内皮細胞の窓の形成(fenestration)にも必須である。内皮細胞の窓は,成熟膵島において効率のよいグルコース感受性と間質の流れ(interstitial flow)を促進する10)11)。Pdx1プロモーターでVEGF-Aを欠損させたマウスでは膵島内血管密度が著しく低下し,その結果,耐糖能異常が起こる。内皮細胞の窓の減少,内皮細胞のカベオラ数の増加も認められる。これは,カベオラが残存している血管の“tightening”に関連して起こる分泌能低下に対して,代償的に機能することを意味する。ただし,このマウスでは血管の完全欠損が認められる。したがって,内皮細胞の作用や血管形成にはVEGF-A以外の他の因子も寄与しているということである9)。その例として,発生過程のβ細胞で発現している血管成長因子アンジオポエチン(angiopoietin;Ang)-1がある10)。Ang-1は,インテグリンと同様,受容体型チロシンキナーゼTie-2に結合し,血管の生存と安定性を促進する。一方,Ang-1とTie-2を欠損させると,重度の血管異常で胎生致死となる9)。さらに,内皮細胞は膵島の血流に関する作用のほか,多くの細胞外マトリックス(extracellular matrix;ECM)蛋白の源となる。ECM蛋白は,β細胞の分化や増殖を助ける12)。最近の報告では,内皮細胞由来因子である結合組織成長因子(connective tissue growth factor;CTGF)が,内分泌細胞系譜の配分(allocation)やβ細胞の増殖に関与することが示されている。CTGFは,胎生膵の運命が決定されたβ細胞では低発現であるが,膵島の血管では高発現する。CTGF欠損マウスの膵島では,α細胞が増加する。したがって,CTGFは内分泌前駆細胞がβ細胞に分化するために必要であると考えられる。しかし,CTGFの受容体はまだみつかっていない13)。
5 β細胞―内皮細胞間シグナルの相互作用
健康な個体では,β細胞はインスリン産生と増殖のupregulationにより生後発育,体重増加,妊娠のようなインスリンの高い需要に適応している。膵島の成長には,血管からのパラクラインシグナルに加えて酸素と栄養が必要とされ,血管-β細胞間の相互シグナルによって毛細血管の増生が起こる。
6 β細胞から内皮細胞へのシグナル
VEGF-Aは,生後の膵島においても機能している。特に,出生直後の膵臓においてVEGF-Aは内皮細胞の増殖を促進する14)。子宮内での成長が抑制されたラットでは,出生直後のVEGF-A発現量が低い。これは,VEGF-Aの発現量低下が血管密度の低下,早期のインスリンの枯渇,β細胞量の減少に関与することを示している。さらに,このラットのVEGF-Aレベルと血管密度は,インクレチンExendin-4処理により回復する9)。一方,妊娠ラットの膵島増生期には,VEGF-A発現量が増加することによって内皮細胞の増殖が促進され,β細胞の分裂が誘導される14)。つまり,新生仔から成体にかけての成長期,あるいは妊娠期における膵島細胞量の増加は,VEGF-A発現量増加によって起こる膵島内の毛細血管密度の増加に付随した現象である。一方,VEGF受容体のアンタゴニストをマウスに投与すると膵島血管密度が急速に減少し,糖代謝が悪化することが報告されている。つまり,VEGF-Aシグナルは成熟膵島において血管叢の維持とβ細胞の機能に必須である9)。
7 血管からβ細胞へのシグナル
β細胞の増殖や機能を調節する血管由来シグナルには,肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)やCTGF,ECM分子などの成長因子が関与する。HGFは,新生仔の成長期や妊娠期におけるβ細胞の増殖において機能する。HGFは内皮細胞で発現し,その受容体であるc-Metに結合する。c-Metはβ細胞で発現し,β細胞の増殖を促進する9)。またβ細胞は,独自の基底膜を形成することができない15)。代わりに,膵島内皮細胞が特殊化したECMの1つである血管基底膜を産生し,β細胞の重要な機能を担っている。膵島では,β細胞に発現するVEGF-Aが血管を呼び寄せ,血管内皮細胞によって基底膜が形成される。そして,基底膜によって産生されたラミニン,特にラミニン-511とラミニン-411がβ細胞に発現するβ1-インテグリン受容体に結合し,β細胞の増殖とインスリン産生を促進する。したがって,Pdx1プロモーター下でVEGF-Aを欠損させると,基底膜は膵島内では減少するが,腺房細胞には変化が起こらない12)。また,内皮細胞はラミニンの他にコラーゲンⅣを産生する。コラーゲンⅣは,α1β1インテグリンとinteractしてインスリン分泌を促進する9)。そして,これが血管の増生,基底膜の産生,そしてHGFの産生と分泌を促進し,インスリン産生とβ細胞の増殖を誘導する。このほか,血管基底膜に発現する多くのECM分子が存在するが,膵島機能における役割については不明な点が多い。また,ヒトの膵島の血管はマウスとは異なり,二重基底膜で覆われている16)。
8 血管細胞を構成する周皮細胞
周皮細胞とそれに関連する血管平滑筋細胞(vascular smooth muscle cells;vSMCs)は,壁細胞を構成し,さまざまなサイズの血管を支えている。動脈や静脈のような大血管に関連した壁細胞は,vSMCsと呼ばれる。一方,毛細血管,細動脈,細静脈のような細い血管に関連した壁細胞は,周皮細胞という。vSMCsは収縮性に富み,特にα平滑筋アクチン(α-smooth muscle actin;α-SMA)を高発現し,血管周囲に同心円状の多重層を形成する。さらに,vSMCsはエラスチンと線維状コラーゲンに富み,血管基底膜とは別の独自の基底膜をもつ。一方,通常周皮細胞は,小血管の周りに一層の非連続性の層を形成し,内皮細胞と共通の基底膜を有する。そして,vSMCsのように血管の収縮を介して血管の直径や毛細血管の血流を調節している4)。この周皮細胞(pericyte)も,β細胞の機能に関与する。周皮細胞は,血小板由来成長因子(platelet derived growth factor;PDGF)を産生する内皮細胞によってつくられる。そして近年,膵島血管への周皮細胞の付加が障害されると,糖尿病を引き起こすことが報告された9)。周皮細胞の減少によって内皮細胞の過形成が起こることから,周皮細胞は内皮細胞の増殖を抑制すると考えられている。さらに周皮細胞が減少すると,内皮細胞膜の過剰な折りたたみと,管腔内の細胞質の突出を引き起こす。それが,血流や栄養素の交換に影響を与える可能性がある17)。さらに,さまざまなシグナル伝達回路を介して内皮細胞と連絡をとり,内皮細胞の分化や成熟を促進する。また血管形成過程において,周皮細胞は出芽した血管の先端に分布し,VEGF発現により血管の出芽過程を指示すると考えられている4)。
9 周皮細胞の機能におけるPDGF-B
PDGF-Bとその受容体であるPDGF受容体-β(PDGF receptorβ;PDGFRβ)は,血管への周皮細胞の供給と増殖において非常に重要である。PDGF-BはPDGFファミリーに属する蛋白で,VEGFファミリーと構造上の相同性をもつ。哺乳類のPDGFファミリーには,PDGF-A,PDGF-B,PDGF-C,PDGF-Dがあり,そのなかでもPDGF-Bは血管内皮細胞,巨核球,神経で発現する。PDGF-Bの主な機能は,成長過程の血管への周皮細胞とvSMCsの遊走を促進することである。周皮細胞とvSMCsの細胞表面のPDGFRβはPDGF-Bに結合し,壁細胞が内皮細胞壁に補充される。PDGF-BとPDGFRβノックアウトマウスでは,周皮細胞の著しい減少,広範囲にわたる血管の漏出,周産期致死性など,両者で類似した重度の欠陥が起こる。In vitroの解析では,PDGF-BシグナルはPDGFRβを過剰発現させた条件下においてのみ,β細胞の増殖を促進する。β細胞の内因性PDGFRβ発現量は非常に低いことから4),PDGF-Bは直接β細胞にシグナルが伝達されるわけではないようである。
10 膵島機能における周皮細胞の役割
正常な膵島機能における周皮細胞の役割については,解明されていない点が多い。しかし,多くの病的状態に関連した膵島周皮細胞の変化については記述されている。肥満動物において,膵島の周皮細胞は肥大し,vSMCsの特徴を担うようになる。特に,周皮細胞はより平滑筋細胞様の形質を呈し,これが潜在的に増加した膵島の血圧に反応すると推測された。ob/obマウスの膵島では,α-SMAやNG-2の染色性が上がる。この結果は,ob/obマウスで肥満に誘導された周皮細胞の肥大と一致する。高血圧のRen2ラットの膵島は,周皮細胞の増殖,遊走,肥大が起こり,α-SMA染色性が高まる。ヒト膵島アミロイドポリペプチド(islet amyloid polypeptide;IAPP)を過剰発現させたラットでは,周皮細胞のアポトーシス増加と周皮細胞の減少に加えて,β細胞量と膵島毛細血管密度の両方が減少する。2型の糖尿病モデルラットでは,周皮細胞と炎症細胞の増加により膵島-外分泌組織間の細胞外基質が拡大する4)。さらに,PDGFの結合蛋白をコードするgenetic locusであるsorting receptor related consensus sequence 1(SORCS1)が,マウスとヒトにおいて2型糖尿病の発症に関与することが報告されている18)。つまり,内皮細胞だけでなく周皮細胞も膵島機能に必須となる膵島血管の要素となる可能性があるといえるだろう。
11 動物モデルにおける膵島血管の役割
2型糖尿病は,末梢組織でのインスリン抵抗性とβ細胞破壊が組み合わさって起こり,結果としてインスリン作用の相対的な欠乏を誘導する。近年の動物モデルを用いた研究から,膵島の炎症に伴う膵島血管障害が2型糖尿病発症に寄与すると考えられている。自然発症の非肥満型2型糖尿病モデルであるGoto-Kakizaki(GK)ラットでは,内皮細胞の傷害と酸化ストレスがインスリン分泌障害に関与している。膵島の炎症過程において,傷害を受けた内皮細胞が単球を引き寄せる。単球は膵島に徐々に浸潤し,インターロイキン(interleukin;IL)-1βなどのpro-apoptoticサイトカインの分泌により,膵島の破壊が誘導される。そこで,GKラットにIL-1受容体アンタゴニストを投与すると,膵島において酸化ストレスと内皮細胞の傷害が低下する。もう1つの膵島の血管障害に関する報告として,オスのZucker diabetic fatty(ZDF)ラットに関する報告がある。若齢のpre-diabetic ZDFラットは,コントロールに比べて2倍の膵島血管密度を示す。しかし,内皮細胞の形態は高血糖開始とともに崩壊していき,膵島内ではヘモジデリン沈着が起こり,最終的には血管密度の低下へと向かう。そしてZDFラットは,ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γの促進薬であるピオグリタゾンの投与によって血管安定性が保たれ,膵島機能が改善することが報告されている9)。ピオグリタゾンの効果については,末梢のインスリン抵抗性の低下,膵島におけるVEGF-Aの増加とトロンボスポンジン(thrombospondin;Tsp)-1の減少など,異なるメカニズムを介して膵島機能が保護されたと考えられる。高血糖に誘導された血管障害により形成された異常な膵島血管叢が,結果的に2型糖尿病発症期の膵島機能障害とβ細胞死につながる。糖尿病動物モデルにおいては,膵島の血管新生とインスリン分泌の密接な関係についても多くの報告がある。たとえば,Zucker fatty(ZF)ラットやZDFラットでは,肥満によって膵島の量(islet mass)が増加するとき,膵島の血管新生が亢進する。そして,ZDFラットでは糖尿病とβ細胞の減少が起こるにつれて,膵島の血管が減少する。膵島の毛細血管の減少と糖尿病の進行の関連性は,Otsuka-Long-Evans-Tokushima fattyモデルでも報告されている。これらのデータは,膵島の量と膵島の血管の総量が明らかに関連している証拠である。同様に,nonobese diabetic GKラット,obese Zuckerラット,obese Wistarラット,そしてGK-Wistar F1 hybridラットでは,膵島の血流と血圧の上昇が認められる。また,1ヵ月齢のob/obマウスは,痩せ型のC57BL/6マウスと比べて高血糖,高インスリン血症,そしてβ細胞の増生に伴って,膵島の血流が増加する。しかし,膵島の血流は6~7ヵ月齢のob/obマウスでは正常化する。この結果は,高血糖に応答してβ細胞量が増生する際,膵島の血流増加が重要であることを意味している4)。さらに,膵島の毛細血管数の変化は成体のdb/dbマウスでも認められる。db/dbマウスでは,膵島の毛細血管の減少,毛細血管の直径の拡大,周皮細胞の肥大が起こる19)。β細胞が肥大せず代償不全が起きた場合,膵島血管の減少が起こる。面白いことに,インスリン欠損マウスでは膵島の毛細血管の増加と大型の膵島が観察される20)。これらの結果から,インスリン分泌量の不足に応答して,膵島の血管と膵島サイズが増加する代償性機構がある可能性が示唆される。
12 膵島血管における血管再新生の重要性
膵島移植において,膵島の血管再新生はきわめて重要な過程である。膵島移植が成功するかは,移植した膵島が機能血管を確立できるかにかかっているだろう。移植用の膵島単離法では基底膜成分を分解する酵素を用いることから,膵島血管内皮にダメージを与え,膵島の血管を分断してしまう。移植数週間後でも血管新生は不十分なままで,既存の膵島に比べて酸素分圧が低いままである。また,移植1~3日後,膵島細胞のアポトーシスが増加し,β細胞量が減少する。このような機能血管の欠如が膵島の消滅の増加に直接作用することは想像に難くない。機能血管の欠如によって起こる低酸素症や虚血は,膵島の細胞死の増加と強く関係しているだろう。最近の報告では,レシピエントだけでなくドナーの内皮細胞も膵島の血管再新生において重要な機能を果たすことが示されている。lacZ-やGFP-タグを付けたドナーの内皮細胞を使って膵島内の毛細血管を追跡した結果,移植後,膵島血管がキメラとなり,レシピエントとドナーの内皮細胞で構成される,つまり両者が機能血管に関係することが報告されている21)-23)。これらのデータは,血管新生を促進する因子が膵島移植の成功にポジティブな作用をもつことを意味している。したがって,移植した膵島の血管再新生と膵島の生存には,proangiogenic因子の効果を解明することが必要である。たとえば,移植したマウスの膵島にVEGF-Aを過剰発現させると,移植膵島の血管新生および血流が増加する。結果として,インスリン含量が増加,レシピエントの耐糖能が改善,β細胞の生存が高まる4)22)。また,移植膵島にAng-1を過剰発現させると,耐糖能,ブドウ糖応答性インスリン分泌,膵島の血管密度,そして膵島の生存が高まる4)。また,移植膵島で血管新生のインヒビターであるTsp-1を阻害すると血管新生が亢進し,ブドウ糖応答性インスリン分泌が改善した。これらの研究は,移植後に効率のよい膵島血管新生を促進する有用性と,それがβ細胞の生存と機能に有効な作用があることを証明している。したがって,膵島の血管新生に必須となる因子の解明は,糖尿病治療に大いに貢献することになるだろう。最近報告された移植膵島の血管再新生の研究のための新しいモデルのなかに,単離膵島をマウス眼球の前房に移植するという方法がある。この方法では,ストレプトゾトシンで誘導した高血糖を正常化させることができた24)。眼球内に膵島を移植するというこの方法では,膵島の再新生をreal-timeでin vivoモニタリングすることができるので,移植による膵島血管新生の将来的な研究には有用なモデルとなるに違いない。
結 語
糖尿病は,世界規模で広がっている疾病である。膵島の毛細血管網は,酸素と栄養を供給するだけでなく,さまざまな分子レベルで膵島機能をサポートする重要な器官であり,膵島発生,インスリン分泌,インスリンの作用過程と血管の関連性は明らかである。ところが,膵島における内皮細胞や周皮細胞と内分泌細胞の相互作用については,多くの研究が進められているものの,まだ未解明な点が多く残る。たとえば,血管形成における最適な膵島サイズの比率を調節する分子を明らかにする必要があるだろう。しかし,現在明らかになっている膵島の血管形成に関与する因子については,血管細胞とβ細胞のクロストークと,糖尿病患者の膵島機能を改善するうえで有効であると考えられる。さらに,最近の多くの研究では血管内皮細胞に焦点が当てられているが,血管周皮細胞もこれらの過程で機能する興味深い候補である。糖尿病の合併症への関連性からインスリンが誘導した血管拡張と血管収縮のメディエーターとしての機能まで,有効な情報がインスリン抵抗性と2型糖尿病の発症における周皮細胞の役割を示している。今後は,血管内皮細胞の機能に加えて,血管周皮細胞の機能を解明することも必須となるだろう。
文 献
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順天堂大学大学院医学研究科膵再生医学講座・博士研究員
原 朱美 Akemi Hara
順天堂大学大学院医学研究科内科学・代謝内分泌学講座教授
綿田 裕孝 Hirotaka Watada