Summary
自己免疫疾患とは,本来抑制されるはずの自己成分に対する免疫応答に基づく病態であり,特に全身性エリテマトーデス(SLE)では,樹状細胞(DC)の一亜群が自己核酸に応答してⅠ型インターフェロン(IFN)産生を誘導することが,病態の起点となる。さまざまな免疫制御作用をもつスタチンが,その多面的作用の1つとして,このDC亜群のもつⅠ型IFNの産生能を阻害することが最近判明した。スタチンのこの抑制的効果は,今後SLEをはじめとする全身性自己免疫疾患に対する新たな治療戦略に寄与すると考えられる。
Key words
●自己免疫疾患 ●形質細胞様樹状細胞 ●Ⅰ型インターフェロン ●全身性エリテマトーデス
はじめに
自己免疫疾患は,本来抑制されるはずの自己成分に対する免疫応答に基づく免疫破綻によって引き起こされる病態である。そして,自己免疫疾患の病態発症の起点にⅠ型インターフェロン(interferon;IFN)が関与していることが,最近の研究で判明している。Ⅰ型IFNとは,IFN-αサブタイプ13種類を筆頭としてIFN-β,IFN-ω,IFN-λサブタイプ3種類,IFN-τなどが含まれ,強力な抗ウイルス・抗腫瘍活性をもつことから,一部は実際に臨床応用されているサイトカインである。その作用は,細胞内ウイルス増殖抑制作用のみならず免疫システムの活性化,たとえばマクロファージやT細胞の機能発現に関与し,さらにはNK細胞や好中球などの活性化を促す。このように,Ⅰ型IFNは以前より生体防御物質のなかでも,特に自然免疫応答における中心的なサイトカインと考えられている。そして,このⅠ型IFNを大量に産生する血液中の細胞が,樹状細胞(dendritic cell;DC)の一亜群として存在する1)。DCは本来,抗原を捕食し抗原特異的にT細胞へ抗原提示・活性化することにより獲得免疫応答を誘導する抗原提示細胞である。しかし,このDC亜群はウイルス感染によって多量のⅠ型IFNを産生する特性を有し1),いわゆるnatural IFN-producing cell(Ⅰ型IFN産生細胞)として認知されている亜群である(図1)。
しかしながら,本来生体防御の中心をなすDCが,あろうことかさまざまな炎症性疾患の病態発症・進展に関与することが近年示唆されている。
本稿では,この観点から今号のテーマであるスタチンのもつ多面的作用の1つである免疫制御効果に注目し,自己免疫応答を誘発するⅠ型IFNと,その産生細胞としてのDC亜群に対するスタチンの抑制効果について概説したい。
1 自己免疫疾患と樹状細胞により産生されるⅠ型IFN
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)をはじめとするいくつかの自己免疫疾患(関節リウマチ,強皮症,シェーグレン症候群,皮膚筋炎など)において,Ⅰ型IFNによって誘導される遺伝子群の発現(IFN signatureと呼ばれる)が患者末梢血単核球に多く認められ,それゆえ自己免疫疾患の病態形成にⅠ型IFNの関与が強く示唆されている。なかでも,特にSLEではIFN signature発現が病勢と相関する2)。またSLEでは,実際に血清IFN-αレベルの上昇が報告され3),その血清レベルが皮膚病変やリンパ球減少,低補体血症などの疾患活動性と相関することも示されている。さらに,Ⅰ型IFNはウイルス性肝炎患者への治療として投与されるが,その副作用として抗核抗体陽性化など,薬剤性ループス発症はよく知られる事実である。加えて,IFN-α導入マウスで抗DNA抗体の出現が確認されることからも,Ⅰ型IFNの産生亢進がSLEにおける病態発症ならびに進展の1つの起点であると考えられている。
このⅠ型IFNを産生し,自己免疫疾患病態を引き起こす細胞として,DCの一亜群(形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DC;pDC))が近年示唆された(図1)。
このpDCは,自己核酸に応答してⅠ型IFN産生を誘導し,自己免疫応答の病態進展に寄与する。pDCは,これまでの報告ではSLEや尋常性乾癬において,末梢血中からの数的減少と皮膚病変における活性化pDCの異常浸潤が認められた4)5)。また,SLE患者血清で培養すると健常人末梢血単球が速やかに成熟抗原提示細胞へ分化すること,さらにそのDC分化誘導因子は血清Ⅰ型IFNであることも証明された6)。そして,乾癬患者由来の皮膚をマウスに移植すると皮膚炎が発症すること,その発症にⅠ型IFNとpDCが必須であることも報告されている5)。このように,いくつかの自己免疫疾患において液性因子としてのⅠ型IFNと,その産生細胞としてのpDCが病態の発症・進展に中心的に関与しており,それゆえ,それぞれが分子/細胞レベルで治療戦略におけるターゲットとなりうると考えられる。
2 SLE病態におけるⅠ型IFNを中心とした悪循環
SLEの病態におけるⅠ型IFNとpDC,ならびに免疫担当細胞の関係を図2に示した。
トリガーとしてのウイルス感染や核酸を認識したpDCは大量のⅠ型IFNを産生し,末梢血単球を成熟抗原提示細胞(単球系DC)へ分化させる。処理しきれない自己の死細胞由来のヌクレオソームを貪食した成熟抗原提示細胞は,自己反応性のCD4陽性T細胞,さらには自己抗体産生のB細胞や形質細胞を誘導する一方で,自己反応性CD8陽性T細胞をも分化させることにより組織障害を惹起し,死細胞由来のヌクレオソームのさらなる遊離を促す。その結果,成熟抗原提示細胞の自己成分や自己核酸の認識を助長することで自己反応性の抗原提示能がさらに増強される。pDCの産生するⅠ型IFNは,これら自己反応性T細胞やB細胞を直接活性化する能力も有する。また,障害組織より遊離した自己核酸は自己反応性のB細胞/形質細胞より産生された自己抗体と免疫複合体を形成し,pDCのエンドゾーム内にあるToll様受容体(Toll-like receptor;TLR)に認識され,さらに持続的な過剰Ⅰ型IFNが産生される。このような病的な悪循環が形成されることにより,SLEなどの自己免疫応答の病像が形成されると考えられている。
このpDCは元来,生体内における血中Ⅰ型IFN産生細胞としてウイルスや細菌由来の核酸を検知し多量のⅠ型IFNを産生するという,自然免疫における抗ウイルス・抗細菌免疫防御システムの要といえる細胞である。しかしながら,本来非自己の核酸を認識し活性化するはずが,組織障害などで産生される自己核酸にも応答しⅠ型IFNを産生してしまうことにより,前述の自己免疫疾患の病態を形成してしまう。
そのⅠ型IFN産生の詳細なメカニズム,すなわち自己免疫疾患では自己核酸に対する制御がいかに破綻し,IFN産生を誘導しているのかという点が近年まで不明であったが,最近になり,その病態発症と免疫破綻のメカニズムが解明されつつある。そして,Ⅰ型IFNとその産生細胞としてのpDCを標的として,この病的悪循環を断ち切る何らかの薬剤があるならば,それはすなわち,SLEにおける新たな治療薬の開発につながるといえる(図3)。
3 スタチンのもつ多面的作用
脂質異常症治療薬として世界的に広く使用されているHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は,近年,脂質低下作用のほかに血清C反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)やインターロイキン(interleukin;IL)-6,可溶型細胞間接着因子(intercellular adhesion molecule;ICAM)-1など冠動脈疾患に関する炎症性マーカーを抑制することが示され,種々の炎症性疾患に対する治療効果が注目されている。近年のスタチン系薬物を使用した大規模臨床試験によると,虚血性心疾患の発症を予防することは周知の事実であるが,この効果は必ずしもコレステロール低下作用だけに基づくものではないことが最近の研究成果から明らかになった。歴史的には,1995年にスタチン系薬物を用いて治療された心臓移植レシピエントでは,重篤な急性拒絶反応の発症率が低下することが報告された7)。スタチンによる脂質抑制効果以外に動脈硬化に関する炎症マーカーが抑制されており,その機序として細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte;CTL)やNK細胞活性を低下させる効能に基づくことも示されている。その後,にわかにスタチン系薬物の多面的作用が注目され,スタチンのもつ抗炎症および免疫抑制効果に関する研究成果が蓄積されつつあり,種々の炎症性疾患における抗炎症効果が期待されている。実際に,リウマチ病態モデルマウスにおいて,スタチン投与が滑膜びらん,炎症細胞の滑膜への浸潤を抑制し,一方,ヒトにおける臨床試験ではスタチン投与により関節リウマチ患者における炎症反応の低下と腫脹関節数の減少が認められている8)。これらの一連の研究によって,スタチンのもつ抗炎症および免疫抑制作用は,関節リウマチなどの一部の自己免疫疾患への治療応用が期待されている。しかしながら,自己免疫疾患のプロトタイプともいえるSLEにおけるスタチンの効果や作動メカニズムに関しては,不明な点が多い。したがって,スタチンの抗炎症および免疫抑制作用をSLE病態発症の中核の役割を果たすDCの側面から解析することは,スタチンのもつ免疫制御機構の解明にあたって非常に有益な検討方法と思われる。
4 スタチンによる樹状細胞からのIFN-α産生抑制効果
CpG-DNAを用いたTLR刺激によって,ヒト末梢血単核球ならびにヒトpDCはIFN-αを産生するが,スタチン添加によって用量依存的にその阻害効果が認められることが近年の論文で判明した9)。また,pDCにおけるIFN-αの産生には,最終的にインターフェロン調節因子(IFN regulatory factor;IRF)7のリン酸化と核内への移行が必須である。したがって,スタチンのもつIFN-α産生抑制作用の分子機構の1つとして,このIRF7核内移行の抑制が仮説として考えられる。この点に関しても検討されているが,予想通り,スタチンによってpDCにおけるIRF7の核内移行は抑制されることも確認された9)。これらの検討結果の臨床的意義は大きく,スタチンの新たな抗炎症効果として,生体内においてpDC由来IFN-αの産生を抑える可能性が見出され,この抑制的効果は,今後SLEをはじめとする全身性自己免疫疾患に対する新たな治療戦略に寄与する可能性があると考えられる(図3)。
また,SLEでは自己核酸の放出をpDCが検知する際に,組織由来の抗菌ペプチドLL37や組織破壊で放出される核内のDNA結合蛋白(high mobility group box 1 (HMGB1)),およびヒト好中球ペプチド(human neutrophil peptides;HNP)が核酸と複合体(自己核酸-自己抗体免疫複合体)を形成することで安定化され,細胞内エンドゾームへの移行を介助することによってTLR刺激活性を増強する10)11)。さらにこの現象には,好中球も関与していることが最近の研究で報告された12)。好中球が障害を受けるときに,蜘蛛の巣状の形状を示す核内DNAを含んだneutrophil extracellular traps(NET)という成分を放出する。NETには,自己核酸-自己抗体免疫複合体のみならずLL37やHMGB1が含まれており,NET自身がpDCを直接活性することができる(図2)。
いずれにせよ,これらの複合的な応答がSLE患者では持続的に起きているため,慢性的にpDCからⅠ型IFNが産生され,IFNを中心とした病態の悪循環が形成されるのは前述の通りである。したがって,SLEでは組織障害に伴い形成される核酸・蛋白複合体と好中球由来のNET,これらすべてが含まれる患者血清こそが,Ⅰ型IFN産生を促す病態発症因子であるといえる。実際に,抗DNA抗体をもつSLE患者血清を用いて正常末梢血単核球を培養すると,Ⅰ型IFN産生が認められることが報告されている13)。はたしてスタチンは,このようなSLEの疑似状態ともいえる血清から誘導されるⅠ型IFN産生系においてもⅠ型IFN産生を阻害できるのであろうか? 実験上,スタチンはSLE患者血清による刺激でもヒト末梢血単核球由来IFN-α産生を抑制することが証明された9)。臨床応用への観点から,マウスを用いたin vivoの効果もさらに検討されている。スタチンを腹腔内へ前処置したマウスは,TLR刺激物質を投与しても血清IFN-αの上昇が有意に抑えられた9)。この結果から,薬剤としてのスタチンはin vivoにおいてもその多面的作用としてⅠ型IFN産生抑制能が有用であると証明されたといえる。この効果は,スタチン投与によって実際にSLE様症状を発する自己免疫疾患モデルマウス(NZB/NZWF1)の症状を軽減させる報告14)とも合致する。
一方,スタチンの作用はコレステロール合成経路において,HMG-CoAからメバロン酸への反応を触媒するHMG-CoA還元酵素を選択的に阻害することである。その結果,メバロン酸以下の合成系を遮断し,コレステロール生成を抑制する(図4)。
また,HMG-CoA還元酵素の下流代謝産物であるメバロン酸を添加することによって,スタチンのもつHMG-CoA還元酵素阻害効果は相殺されることとなる。実際に,スタチンのもつⅠ型IFN産生抑制能はメバロン酸の添加で解除される9)。また,スタチンのもつ多面的作用は,コレステロール生成阻害作用とは別に存在すると考えられている。スタチンによって阻害されるコレステロール合成経路への分岐には,イソプレノイドと呼ばれるファルネシルピロリン酸(FPP)やゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)があるため,スタチンは結果としてこれらの合成をも阻害し,その下流で生成される低分子量GTP結合蛋白質であるRasやRho蛋白合成をも阻害する(図4)。これらRas/Rho蛋白は,細胞の分化・増殖の制御や骨格の形成に重要であることが知られており,スタチンのもつ抗炎症効果を含めた多面的作用は,実はこのRas/Rho蛋白活性を抑制することに起因することがいくつかの論文によって示されている15)16)。Rhoの下流のメディエーターはRhoキナーゼ(ROCK)であり,実際にRho-ROCKの作用を直接阻害するRhoキナーゼ阻害薬を用いると,スタチンと同様の効果として関節リウマチ由来滑膜細胞をアポトーシスに誘導することも証明されている16)。pDCからのIFN-αの産生は,スタチンを用いたときと同様にRhoキナーゼ阻害薬によっても著明に低下することが示されており9),このことから,スタチンのもつⅠ型IFN抑制作用もRho蛋白生成阻害に起因すると考えられる(図4)。
おわりに
現在までのところ,SLEをはじめとする自己免疫疾患には根治する治療法はなく,終生にわたるステロイド療法を中心とした非特異的な免疫抑制療法が主流である。そのため,ステロイドの副作用(肥満,骨粗鬆症,高血圧,糖尿病,易感染性など)が問題となるケースが多い。本稿で解説してきたように,近年の研究によって,この難治性疾患であるSLEに対して治療のための新たな標的細胞と分子が解明されつつある。スタチン系薬剤のpDCならびにⅠ型IFNをターゲットとした抑制効果は,SLEの病態におけるpDCとpDCの産生するⅠ型IFNの役割を考えると,今後ヒトにおける新たな治療法へつながる可能性が期待される。
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関西医科大学内科学第一講座准教授
伊藤 量基 Tomoki Ito