Summary
スタチンは脂質異常症治療薬として広く使用されているが,脂質低下作用以外に血管内皮細胞に対する直接作用を有することが報告されている。その1つとして,下肢虚血モデル動物においてスタチンは血管新生を増強することが報告され1),そのメカニズムとしては血管内皮細胞におけるAktパスウェイと内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性化が関与しているとされている。また最近,Notch1シグナルがスタチンを介する血管新生に関与するという報告もある。
本稿では,スタチンの血管新生における効果とそのメカニズムについて,最近の知見とともに紹介する。
Key words
●血管新生 ●スタチン ●血管内皮前駆細胞(EPC) ●Akt ●Notch
はじめに
血管新生(angiogenesis)とは,何らかの刺激により既存の血管から新しい血管網が生じる現象である。これは,虚血性心血管疾患や悪性腫瘍において病態反応的に起こる現象であり,胎生期に造血幹細胞より血管内皮細胞が分化し,血管が形成される血管形成(vasculogenesis)とは異なる現象である。
血管新生は,血管新生促進物質と血管新生抑制物質とのバランスによりコントロールされている。血管新生を促進する代表的な因子として,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)や塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor;bFGF/FGF-2)がある。さらに,内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelial nitric oxide synthase;eNOS)やマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase;MMP)もこの過程に関与している2)。
スタチンは,HMG-CoA還元酵素を抑制することにより肝臓のコレステロール合成を低下させ,高コレステロール血症を改善する。また,血管内皮機能改善効果があることも実験的に確認されている。そして,血管内皮機能改善効果に血管新生促進効果が関与するといわれている。
1 Aktの活性化とスタチン3)
Aktは,細胞増強や糖代謝の調節などさまざまな機能をもつプロテインキナーゼである。Aktは内皮細胞の恒常性維持に重要であり,VEGFとangiopoietinにより活性化される。さらに,Aktの活性化は内皮細胞においてeNOSをリン酸化することにより一酸化窒素(nitric oxide;NO)産生を亢進させ,血管拡張に働く4)。したがって,AktはVEGF依存的な血管新生に欠かせない因子であり,血管新生を誘導するメディエーターとして考えられている。
スタチンを培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells;HUVEC)に作用させるとAktのリン酸化が亢進するため,Aktは内皮細胞におけるスタチンのターゲットの1つと考えられている。さらに,スタチンはAktを介したeNOSのリン酸化を誘導し,NO産生を促進して内皮細胞機能を賦活化する。スタチンによるeNOS活性化亢進の機序に関しては,mRNAの安定化や直接的転写促進などもこれまで報告されているが,Aktの活性化もスタチンによるNO産生亢進の重要なメカニズムの1つである。血管内皮細胞におけるNO産生が血小板接着,血管炎症および平滑筋細胞増殖の抑制を含むさまざまな血管内皮保護機能に関与することから,臨床におけるスタチンの内皮機能改善や組織内循環の活性化を介して心血管イベントの減少に重要な役割を果たしている可能性が示唆される5)-8)。また,最近では血管新生や安定化に寄与するNO合成や細胞の遊走を促進する作用をもつ成長因子にAktが働きかけることが報告されている9)。
ウサギの大腿動脈虚血モデルにアデノウイルスベクターを用いてAktを過剰発現させると,側副血管の形成と組織への血流量の改善がみられ,虚血部位の骨格筋における毛細血管密度の増大がみられた。また,虚血肢動物にスタチンを投与すると,Akt過剰発現モデルと同様に側副血管形成の亢進がみられた。さらに,スタチンの血管新生促進効果は血中脂質改善効果に依存しないことから,血中脂質レベルが正常であっても効果が期待できる。今後,スタチンの血管新生促進効果については臨床研究における有効性評価が期待される。
2 EPCに対するスタチンの効果10)
血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell;EPC)は内皮細胞に分化する能力を有する未分化細胞で,循環血液中に少量存在していると考えられている11)。これまでに,スタチンはEPCの遊走や分化を促進することが報告されている12)-15)。
脂質異常症患者から単離した末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell;PBMNC)を培養すると,スタチン投与群においては非投与群に比べ分化するEPC数が有意に増加し,スタチンのEPCへの分化誘導促進作用として注目された16)17)。興味深いことに,この効果は血管新生促進作用があるとされるインターロイキン(interleukin;IL)-8 18)19)の血中濃度上昇と並行し,さらにAktの活性化とも相関している。
最近,EPC数の減少や機能低下が心疾患の危険因子となることが示唆されている20)。特に,脂質異常症患者ではEPC数の減少や機能低下がみられることが報告されているが21),これらの患者にスタチン投与を行うと幼弱な紡錘形のEPCと成熟したEPCがともに増加する。さらに,スタチン投与4週間後にはそれらの患者のPBMNCにおいてEPC分化を示す指標の1つであるkinase insert domain receptor(KDR)が著明に増加する。この2つの結果から,スタチンはEPCを誘導する効果をもち,さらにPBMNCよりEPCへの分化を促進する作用をもつことが示唆された。
前述の通り,EPC数の減少とその機能低下は,心疾患の危険因子である20)。最近の研究では,EPC数は従来の心疾患危険因子とは独立した心血管イベントの予測因子であることが示された。特に,血中コレステロールの上昇はEPC数の減少だけではなく細胞機能の低下にも関係があることが示されており,血中コレステロールを低下させることによってEPCの増加と機能回復が期待される。
IL-8は血管新生を促進するサイトカインとして知られており18)19),マウス角膜の移植モデルにおいて血管内皮細胞の遊走と増殖を介して血管新生を誘導することが報告されている22)。これは,IL-8が前駆細胞の末梢への遊走に重要な役割を果たすことを示している23)。さらに,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor;G-CSF)投与患者において,IL-8濃度が高いと骨髄由来の幹細胞数が増加することが報告されている24)。これらのことから,IL-8には幹細胞の誘導を促進する作用があることが推察される。スタチン処理によってEPCのIL-8分泌量に変化はみられないが,スタチン処理後の単球培養液中のIL-8は著明に増加し,さらにスタチン処理した単球から産生されたIL-8に依存してEPCの走化性が亢進することから,スタチンは血管新生においてIL-8を介して効果を発揮することが考えられる。
また,シンバスタチンのような疎水性スタチンはIL-8の産生を刺激するが,プラバスタチンのような親水性スタチンは炎症反応を惹起する作用がないことが報告されている25)。つまり,疎水性スタチンと親水性スタチンによってスタチンの抗炎症効果は異なるのではないかという議論である。しかし,大規模スタディの結果からは親水性スタチンを用いた研究(MEGA,JUPITERなど)においても多面的作用を示唆するデータが得られており,生体内のスタチンの作用とその疎水性との関連は明らかではない。また,血管新生においてスタチンは高用量と低用量で異なる効果をもつことが報告されている26)。低用量スタチンには血管新生促進作用がみられ,高用量スタチンではEPC数が減少し,血管新生抑制作用がみられる27)。
3 Notchシグナルを介した血管新生28)
Notchシグナルは神経,血管などの発生過程において重要であり,後生動物においてよく保存されているシグナル伝達経路である。Notch受容体は膜貫通型受容体で,細胞膜内の蛋白分解を介して細胞表面から核へ直接シグナルを伝達する。リガンドが結合すると細胞膜内ドメインでγ-セクレターゼによる分解を受けて細胞外ドメインが切り出され,Notchの細胞内ドメインが核へ移行し,Hes-1などのターゲット遺伝子に対する転写因子としての機能を獲得する29)。つまり,γ-セクレターゼによってNotchシグナルの活性化と切り出しは厳密に調節されているといえる。また,心血管関連ではNotchはVEGFおよびVEGF受容体の機能を制御しているephrin-B2のシグナル促進に関与しているので30)31),Notchは血管新生における重要な分子であると考えられる。
Notch1,4は血管内皮細胞において高発現しており,内皮型Notch1は胚形成と虚血モデルにおける血管新生において重要である。脳梗塞モデル動物において,スタチンは血管細胞中のNotch関連蛋白の発現を亢進させるとされるが,その機序はまだ解明されていない32)。NotchのリガンドであるDelta-like 4はNotchシグナルを活性化するが,VEGF受容体2,3の発現を抑制し,血管新生を抑制するように作用するという報告もある33)。一方で,VEGF受容体の誘導によって血管新生が亢進するという報告もある34)。
Notch1ノックアウトマウス(N1+/-)の虚血モデルを用いて,スタチンによって惹起される血管新生におけるNotch1の作用を検討すると,野生型マウス(wild type;wt)ではスタチンがPI3K/Aktパスウェイの下流にある内皮型Notch1を活性化し,VEGF非存在下で虚血部位での血管新生を促進するのに対し,N1+/-に虚血傷害を起こすと血流の改善がみられなかった。さらにスタチンを投与した場合,wtでは血流の改善効果が明らかにみられたが,N1+/-ではその効果がみられなかった。免疫染色法でCD31とα-平滑筋アクチン(smooth muscle actin;SMC)の発現を確認すると,N1+/-,wtともにスタチンによってα-SMCの発現が亢進していたが,その程度はwtと比較してN1+/-では明らかに減衰していた。これらの結果から,スタチンによって誘導される血管新生メカニズムにNotch1が関与している可能性が示唆される。
スタチン処置をしたHUVECでのNotch1のノックダウン実験によりスタチン存在下でNotch1が発現しているときはephrin-B2の発現がみられるが,Notch1をノックダウンするとephrin-B2の発現が抑制され,スタチンとNotch1シグナルの関連を支持している。また,N1+/-はwt同様にスタチン投与下でのVEGFの発現誘導に変化はみられなかったことから,VEGFはスタチンによるNotchシグナルの活性化パスウェイとは独立している可能性もある。
スタチンは,平滑筋細胞においては細胞増殖を抑制するが,HUVECにおいては増殖を誘導する。この現象はPI3K阻害薬,Akt阻害薬,γ-セクレターゼ阻害薬によって抑制されるが,L-NAMEでは阻害されなかったため,PI3K-Aktシグナルに依存的であり,eNOS非依存的なシグナルと考えられた。さらに,スタチンはNotchの細胞内ドメインを切断するプロテアーゼpresenilin1とγ-セクレターゼを活性化し,結果的にNotch1活性を増強する。また,AktのノックダウンやPI3K阻害によってスタチンによるNotch1活性が減弱することから,PI3K/Aktパスウェイを介して内皮細胞におけるpresenilin活性,γ-セクレターゼ活性,およびNotch1活性を亢進させることが示唆される。
スタチンの血管新生促進作用の新たなメカニズムとして,Notch1シグナルの重要性についてさらなる研究が必要である。
おわりに
血管新生は,虚血性心血管疾患においては局所の低酸素状態を回復させる合理的な生理現象である。この現象を臨床的にうまく利用していくことが,心血管疾患治療の最適化において重要である。スタチンは,その作用を十分に発揮する薬剤であることが考えられ,今後の臨床における効果が期待される。
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東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科先進倫理医科学助教
大坂 瑞子 Mizuko Osaka
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科先進倫理医科学教授
吉田 雅幸 Masayuki Yoshida