糖尿病患者の足潰瘍・壊疽の発生や下肢切断を減少させるには,初発にせよ再発にせよ足潰瘍となる以前に早期に発見し対処すべきである。この基本を臨床の現場で実践するには,糖尿病患者の通常の診療を担当する医師や看護師が足に関心をもち,効率的な予防的フットケアを行うことが基本である。そのうえで進行した足病変を発見した場合には,適切な治療ができる集学的医療とのネットワークを活用することが求められる。


1 糖尿病患者の下肢切断

 糖尿病患者数の増加に伴って,糖尿病に関連した足潰瘍や壊疽の患者数も,これらの足潰瘍や壊疽から切断に至る例も世界的に増えている。欧米では,糖尿病患者における足潰瘍の年間発生率は1~4%,有病率は4~10%と高率で,糖尿病でない人と比べると約10~30倍とされている1)。糖尿病患者の約15%が生涯のうちに1回は足潰瘍を患うとされてきた。さらに,世界のどこかで糖尿病を原因として,30秒に1本の頻度で下肢が切断されていると推定されている2)。このような高頻度な下肢切断は,発展途上国での糖尿病患者数とそれに伴う合併症の急増,足病変発見の遅れ,創傷治療の知識と人材を含めた医療資源不足によると考えられている。

 スウェーデンの下肢切断率に関する登録住民調査は,初回の切断率が糖尿病患者では非糖尿病者に比して約8倍と高率であったことを示している(表1)。



同調査での切断率は糖尿病でも非糖尿病でも高齢者ほど高く,65~74歳に比べて85歳以上が2~4倍と高率であった3)。また1型糖尿病患者3万例を平均13年間追跡した調査によると,追跡期間中に下肢切断した率を年齢などを合わせて比較すると,比較した一般人が若く切断が少ないために86倍と高率であった4)。

 さらに,糖尿病で下肢を切断した場合は切断後の死亡率が高く,切断1年後に13~40%,3年後には35~65%が死亡するとされている1)。このように,糖尿病患者は足潰瘍や下肢切断のリスクが高率で,発症すると生命予後も不良であることがわかる5)。



2 わが国の足潰瘍・壊疽とフットケアの現状

 わが国の糖尿病患者が足潰瘍や壊疽を発症して切断となる率は,欧米に比べると著しく低率である。下肢切断率を世界と比較した調査によると,英国の糖尿病患者に比べてわが国の糖尿病患者の下肢切断率は10分の1以下と報告されている。このように糖尿病患者の下肢切断率が低いのは,日本人に限らずアジア人(先進国に在住の場合)全体に当てはまる傾向である。米国の在郷軍人病院で行われた糖尿病患者における下肢切断率の調査では,白人に比べるとアジア人は3分の1と低率であった。この理由としては,冠動脈と同様に下肢の動脈硬化の発症率が少ないことと,家のなかでは素足で生活するので足病変を早期に発見できること,などによると考えられている。しかし,最近はわが国でも糖尿病による足病変患者が増加している。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると,わが国の糖尿病患者で足壊疽を合併した人の率は,1997年の調査では0.4%であったが,2002年は1.6%と増加していた。ただし,2007年の調査では0.7%と減少していた。これは,糖尿病に対する経口薬や多様なインスリンが1990年代から登場して全体としては血糖コントロールが改善したこと,足病変に対する認知度が向上したこと,血管内治療が進歩したこと,などによると考えられる。



3 糖尿病足病変の誘因

 糖尿病患者は神経障害,血流障害,易感染性,視力障害などを基礎病態として,関節可動域制限や足趾変形が加わると靴ずれが起きやすくなり,さらに外傷や火傷などをきっかけとして足潰瘍や壊疽に進行することが多い。



1.糖尿病性神経障害

 糖尿病性神経障害は細い神経から障害され四肢末梢の異常感覚や痛み,自律神経障害から始まり,より太い神経まで障害されると知覚も低下する。知覚が低下すると,靴のなかの摩擦や異物,胼胝,小外傷や爪切りなどによる痛みがマスクされるようになり,傷の発見や対処が遅れる。神経障害は,糖尿病患者全体の約20%が有し,60歳以上に限れば約50%が神経障害による何らかの症状を有しているとされている。糖尿病性神経障害の進行に軟部組織の変化が加わると,足関節の可動域制限(limited joint mobility)や足趾変形が出現し,摩擦が高まり足潰瘍が起きやすくなる。足病変の予防的フットケアでは,糖尿病性神経障害を理解して神経学的検査を実施する必要がある。



2.下肢血流障害

 糖尿病にみられる末梢動脈疾患(peripheral arterial disease;PAD)の特徴は,広範な動脈の内腔狭窄と中膜石灰化による弾力性減少である。重症のPADの有病率は,65歳以上の一般人で5%であるのに対して,糖尿病患者では約25%に達するとされる。糖尿病では目にみえるような血管だけでなく皮膚の微小循環も低下して血流障害を促進し,傷の回復や組織の再生を悪くする可能性がある。高血圧,脂質異常症,喫煙,腎機能障害などの動脈硬化リスクを併せもつ糖尿病患者では,下肢の血流障害を定期的に検査する必要がある。



3.感染防御障害

 糖尿病の高血糖は,好中球の殺菌能を損ない,皮膚の感染防御能や創傷治癒力を低下させることが知られている。そのため,靴ずれや小外傷などから細菌が侵入すると,感染が急速に拡大する。この点から,血糖コントロールもフットケアの基本であり,足潰瘍を発症した場合は血糖コントロールが創傷治癒に欠かせない。



4.その他の要因

 その他の糖尿病足病変を悪化させる要因には,透析や視力障害,肥満がある。糖尿病を有する透析患者は,最も末梢循環障害をきたしやすい。また,透析となる段階の糖尿病患者は高度な神経障害も合併しているので,足潰瘍や壊疽の症状がマスクされて早期発見できず,進行して切断となる例が多い。現在,わが国では透析を開始する患者の約半数は原因疾患が糖尿病であるので,透析例の足潰瘍・壊疽は増加の一途にある。また,足潰瘍を発症するような段階の糖尿病患者は,しばしば糖尿病網膜症も進行していて視力低下があるため室内でも足に外傷を受けやすくなり,また爪切り時も爪周囲に損傷を発症しやすく,靴中の異物が確認できず傷を受けやすくなる。

 糖尿病で肥満があると,足の爪を切ることも足の裏を確認することも難しくなる。また,肥満は重力負荷から足変形をきたしやすくなり,リハビリや義肢利用の障害ともなる。フットケアの指導では,視力や肥満も考慮して対処する必要がある。ほかに,高齢,独居,無頓着などが重なると身の回りの整理整頓ができず,足の清潔も保てなくなり,足合併症が重症化しやすい。



4 多彩な糖尿病足病変に対するフットケア

 糖尿病患者の足病変は,槌状足趾など足趾の変形,靴ずれや水疱,爪や足趾の白癬菌症,陥入爪や爪周囲炎,胼胝,潰瘍,壊疽などと多彩である。したがって,対処も初発予防から創傷ケア,血管内治療,切断,リハビリ,再発予防,フットウェアなど幅広い。糖尿病足病変に対するフットケアというのは予防的な意味合いが強く,内科医,糖尿病専門医,看護師,装具士,リハビリのスタッフが関わることが多い。

 予防的フットケアとして重要な点は,基礎病態である糖尿病性神経障害と血流障害を常に念頭に置いて,リスクの高い患者の足を直接観察することである。同時に,構造的変化である腰や膝,足趾の変形,歩行状態,靴との適合などを観察することも重要である。

 具体的には,胼胝の段階で発見して胼胝ができる原因を探し,胼胝を削り,合う靴に変えることが予防的フットケアである。患者自身にも胼胝を観察することを指導するが,医療者が直接診ることが最も重要である。



5 糖尿病足病変の予防

 糖尿病足病変を予防するには,神経障害が足の自覚症状をマスクしている可能性があるので,診察する糖尿病患者全員の足を診ることが理想である。しかし,靴を履いていて訴えもない患者の足を,診察のたびに靴やストッキングを脱いで直接診るのは効率が悪く非現実的である。したがって,現実的で有効な予防的ケアとしては,足病変のリスクを評価してリスクによって患者を選別抽出し,定期的に足を診察したりケアを行うと同時に,足のセルフケアを指導することである。



6 足潰瘍のリスク

 糖尿病足潰瘍や壊疽のリスクには,下肢切断や足潰瘍の既往,腎不全,血流障害(PADなど),神経障害,足趾の変形や胼胝,爪の変形,糖尿病の長い罹病年数,視力障害などが挙げられる(表2)。



 1200名以上の糖尿病患者の追跡などから足潰瘍を起こすリスクを評価した調査によると,足潰瘍の最も高いリスクは下肢切断の既往で相対リスクが2.6~2.8倍,足潰瘍の既往では1.6~2.2倍,血糖コントロール不良で1.1~3.2倍,10年以上の糖尿病罹病年数で3.0倍,視力障害で1.4~1.9倍,モノフィラメント検査による感覚低下で2.0倍であった6)7)。糖尿病性末期腎不全で,さらに透析も行っている患者はPADも糖尿病性神経障害も高度で,足潰瘍や壊疽のリスクが最も高い群である。糖尿病性末期腎不全患者は下肢切断の可能性が高く,腎不全のない糖尿病患者に比べて約4倍高率とされている8)9)。



7 リスクアセスメント

 糖尿病足病変のリスクは,糖尿病として初診したときに足病変の既往を聴いたり,定期的な通院や在宅訪問,透析時に問診したり診察して評価する。下肢の血流障害は,下肢の冷感,しびれ,間歇性跛行,安静時疼痛などの問診と,下肢の体毛の欠如,皮膚や皮下組織の委縮,皮膚の冷感,足背動脈や後脛骨動脈などの拍動,足関節上腕血圧比(ankle-brachial index;ABI)などで評価する。

 神経障害は,下肢のしびれ,痛み,異常感覚,こむら返りなどの自覚症状と,アキレス腱反射,モノフィラメント検査,振動覚などで評価する。下肢の神経障害や血流障害を診察するときに,同時に足趾の変形,胼胝の有無,爪の状態,白癬菌症についても診て評価する。そのほか,視力や血糖コントロール状態,腎症の有無などについてもリスクを把握する。



8 リスク分類

 糖尿病足病変に関するインターナショナルワーキンググループによるリスク分類は,予後との関連も確認されている。同グループのリスク分類は,神経障害も血流障害も認めないグループ0から,足潰瘍(3a)か下肢切断(3b)の既往を有するグループ3まで分けている。2008年には,グループ2を2A(神経障害,足趾の変形あり,血流障害なし)と2B(神経障害,足趾の変形,血流障害あり)に分けた改訂版を出している(表3)10)。



9 リスクに応じた予防的フットケア

 最も足病変のリスクが低い神経障害も血流障害もない患者は,1年に1回足を診察してリスクを評価すれば十分といえる。次いで,神経障害のみ示す患者には,半年に1回足を診察して再評価すると同時に,患者自身が行うフットケアを指導する。たとえば,足の清潔保持,爪の切り方,避けるべき履き物,避けるべき暖房器具などである。次いで,神経障害,足趾の変形,血流障害を合併する患者に対しては,3~6ヵ月に1回足を診察すると同時に,フットケアの教育指導をさらに強化して,変化があれば直ちに受診するよう指導する。足潰瘍や切断の既往を有する最もリスクの高い患者は,1~3ヵ月に1回足を診察する。



10 セルフケア指導

 足病変のリスクを有する患者が自身で日常的に行うフットケアは,毎日足をよくみて清潔に保つことから,低温火傷を避けることなど幅広い(表4)。



この指導にあたっては必要な項目が患者によって異なるので,まず患者と一緒に患者の足をみて確認し,必要性を理解してもらってから具体的に記載して指導する。



11 専門家とのチーム医療

 これらの定期的な足の診察とケアを内科医と看護師のチームが行うときは,それぞれのチームで患者情報の管理やケアの限界を決めておく必要がある。患者情報の管理とは,各患者のリスクを把握しておかなければ診察や指導を行うタイミングを逃してしまう。また,診察時に足に変化を認めた場合,どの段階までは自分たちで行い,どの段階となれば専門医に相談するか,ある程度決めておく必要がある。たとえば,胼胝や白癬菌症,爪白癬があり,処置や内服治療が必要な場合は皮膚科受診を勧める。血流障害を認めた場合は,血管超音波検査やMRIを行うだけでなく,血管外科やインターベンションを行う放射線科,循環器科を受診するよう勧める。陥入爪の場合も,爪の切り方を指導することは糖尿病チームにもできるが,進行例は習熟した皮膚科医や形成外科医に治療してもらうのが最善の方法である。

 患者の足の状態に合った靴を選んだり,中敷きを工夫したり,靴を作製するのは専門家の協力なしには不可能である。



12 チーム医療としてのフットケア

 糖尿病の予防的フットケアは,患者を中心とした糖尿病を診る医師・専門医,看護師,各科専門医,靴装具の作製者,理学療法士,家族などによるチーム医療である。足病変の重要性を理解する医師であれば,看護師が医師と連携して足を診ることに抵抗はない。ただし,そのような場合も医師はできるだけ足を定期的に診て,看護師の技量に応じた観察や処置を指示する必要がある。

 一方,医師がフットケアを理解しない場合,看護師はリスクの高い患者の足を観察して問題点を把握し,他科受診の指示を依頼する。これらの観察や指示の要請が的確であれば,患者と医師の信頼を得てチームをつくることができる。医師の指示なしでも足を診ることはできるが,侵襲の可能性のある処置は指示なしに行うことはできない。

 糖尿病足病変に関するインターナショナルワーキンググループは,ハイリスク患者への予防的ケア,足潰瘍患者の継続的追跡,下肢切断と足潰瘍の登録によって,切断率は50%削減できると指摘している。その点から,フットケアのコストを考慮しても足病変を予防するチーム医療の基盤構築を政策的に行うべきと報告している10)。

 わが国でも,2008年4月の診療報酬改訂で,重症化予防フットケアとして糖尿病合併症管理料が新設された。この管理料の請求には,フットケア技術を身につけた看護師がケアを行う必要がある。


 以上,糖尿病足病変の予防的フットケアの概要とチームアプローチについて述べた。今後,糖尿病を診察する専門内科医と一般内科医が足に関心を深めて,チームでの予防的フットケアが広く行われるよう期待する。


文 献

1)Boulton AJ, Vileikyte L, Ragnarson-Tennvall G, et al:The global burden of diabetic foot disease. Lancet 366:1719-1724, 2005

2)Singh N, Armstrong DG, Lipsky BA:Preventing foot ulcers in patients with diabetes. JAMA 293:217-228, 2005

3)Johannesson A, Larsson GU, Ramstrand N, et al:Incidence of lower-limb amputation in the diabetic and nondiabetic general population;a 10-year population-based cohort study of initial unilateral and contralateral amputations and reamputations. Diabetes Care 32:275-280, 2009

4)Jonasson JM, Ye W, Sparén P, et al:Risks of nontraumatic lower-extremity amputations in patients with type 1 diabetes;a population-based cohort study in Sweden. Diabetes Care 31:1536-1540, 2008

5)Schofield CJ, Libby G, Brennan GM, et al:Mortality and hospitalization in patients after amputation;a comparison between patients with and without diabetes. Diabetes Care 29:2252-2256, 2006

6)Greenman RL, Panasyuk S, Wang X, et al:Early changes in the skin microcirculation and muscle metabolism of the diabetic foot. Lancet 366:1711-1717, 2005

7)Boyko EJ, Ahroni JH, Stensel V, et al:A prospective study of risk factors for diabetic foot ulcer. The Seattle Diabetic Foot Study. Diabetes Care 22:1036-1042, 1999

8)Boyko EJ, Ahroni JH, Cohen V, et al:Prediction of diabetic foot ulcer occurrence using commonly available clinical information;the Seattle Diabetic Foot Study. Diabetes Care 29:1202-1207, 2006

9)O'Hare AM, Glidden DV, Fox CS, et al:High prevalence of peripheral arterial disease in persons with renal insufficiency;results from the National Health and Nutrition Examination Survey 1999-2000. Circulation 109:320-323, 2004

10)Lavery LA, Peters EJ, Williams JR, et al:Reevaluating the way we classify the diabetic foot;restructuring the diabetic foot risk classification system of the International Working Group on the Diabetic Foot. Diabetes Care 31:154-156, 2008

11)渥美義仁:チームで行う糖尿病の予防的フットケア(DVD).東京,メディカルレビュー社,2008


東京都済生会中央病院糖尿病臨床研究センター長

渥美義仁