本邦における花粉症の歴史は1961年のブタクサ花粉症の同定に始まる1)。続いて、1964年に斎藤洋三らにより、日光地方における日本固有種のスギによる花粉症患者の存在が明らかにされ2)、種々の花粉症の研究がすすめられた。当初は、スギ花粉症は成人女性に多い疾患といわれていたが3)、その後スギ花粉感作は幼児期から成立することが明らかになり4)、1992年に栃木県で小・中・高等学校を対象として行われた疫学調査では、6歳時では約10%が、また17歳時では約25%が感作していたと報告されている5)。さらに近年では小学生のスギ花粉症患者を診察する機会も非常に多くなっているのが実情である。
アレルギー性鼻炎の全国疫学調査として、1998年と2008年に馬場らが中心となって、耳鼻咽喉科医ならびにその家族を対象として行われたアンケート調査がよく知られている6)7)。この2回の調査で最も注目されたのは、アレルギー性鼻炎全体の有病率が近年になり大幅に増加していることで、1998年の29.8%が2008年には39.4%と著明に増加しており、特にスギ花粉症が16.2%から26.5%と急増したことが社会に大きなインパクトを与えたのは記憶に新しい。その有病率増加の一つの要因として花粉症の低年齢化も指摘されており、スギ花粉症の有病率は5~9歳では1998年の7.5%が2008年には13.7%に、10~19歳では1998年の19.7%が2008年には31.4%と増加したことが明らかにされた。従来は、小児においては通年性アレルギー性鼻炎が中心であるとされてきたが、この31.4%という数値は10~19歳の通年性アレルギー性鼻炎有病率36.6%と肩を並べるまでに増加し、スギ花粉飛散数の増加に伴う花粉症有病率のさらなる増加が危惧される状況であった。
馬場らが行った2008年の調査の後、約10年が経過し改めて疫学調査を遂行する機運が高まってきた。そして2019年に日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会に有病率調査委員会が組織されて、改めて全国の耳鼻咽喉科医およびその家族を対象としたアンケ―ト調査が企画遂行された。その結果は2020年に報告されたが8)、全体での花粉症有病率のより一層の増加、特に低年齢層での著しい花粉症有病率の増加が明らかとなった。本稿では、これら3回の全国疫学調査の結果を元として、筆者らの施設でこれまでに行ってきた疫学調査の結果も併せて花粉症の低年齢化について解説する。