特集 統合失調症の認知機能障害への治療的アプローチ―薬物療法と認知リハビリテーションの最新知見
特集にあたって
掲載誌
Schizophrenia Frontier
Vol.13 No.1 6-6,
2012
著者名
小山 司
記事体裁
抄録
疾患領域
精神疾患
診療科目
精神科
媒体
Schizophrenia Frontier
統合失調症の認知機能障害は広く知られるようになった. わが国においても神経画像(機能画像・形態画像)や神経生理指標を用いた認知神経科学的なアプローチによる病態研究や, 神経心理検査を用いた認知機能障害の評価法の確立と臨床症状, 社会生活機能との関連を探索する臨床研究が盛んになってきている. しかしながら, 認知機能障害を直接的に治療するアプローチはまだ一般的になっていないのが現状である. 新規抗精神病薬は認知機能障害を改善させるが(効果量は0.5程度), 中核的な認知機能障害の改善効果なのか, あるいは陰性症状などに深く相関する状態依存的な認知機能障害の改善効果なのかは未解決の課題である. また, 認知機能障害を改善させる目的で, 抗精神病薬に抗うつ薬(mirtazapine), アザピロン系抗不安薬(tandospirone), α7ニコチン受容体作動薬, 第二世代抗菌薬のminocycline, NMDA促進剤(セリン, グリシン系関連薬剤)などを追加投与した付加療法では, 統合失調症の認知機能障害がより改善するという知見が報告されている. さらに, 米国では統合失調症の認知機能障害を改善させる認知機能改善薬の開発を後押しすべく, CNTRICSやTURNSと呼ばれるプロジェクト(MATRICSプロジェクトから派生したもの)が立ち上げられ, すでに2つの薬剤が臨床試験に導入されている(GABA-A受容体部分作動薬PAMとampakine). 一方, 非薬物療法的なアプローチとして, 認知リハビリテーションが注目され, 多くの技法が提案されている. しかしながら, メタ解析では効果量はやはり0.5程度と決して大きくはない. わが国では, コンピュータプログラムを用いた認知機能訓練と認知機能を積極的に発揮させる内発的動機づけを向上させる教育心理学的な介入を組み合わせた認知矯正療法のNEAR(Neuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation)が国内の複数の施設で展開されるようになっている. 本特集では, 『統合失調症の認知機能障害への治療的アプローチ』を取り上げ, 中核的な認知機能障害をより確実に改善させる薬物療法の開発状況と認知リハビリテーションの最前線の知識を読者に提供することを目的とした. 従来から, 精神科リハビリテーション, SST, 作業療法などはほぼすべての施設で行われてきているが, 新しい概念である認知機能障害とは実はかなり深い関連を有するといえる. これらの従来のリハビリテーションと認知機能障害, 認知機能リハビリテーションとをどのように関連づけて考えるかは今後の重要課題である. これらを整理して, 統合失調症の社会生活機能を改善させるべく, どのように機能レベルを捉え, 薬物療法やリハビリテーションの具体的目標を設定すべきか, 患者に関わる各医療従事者にとって共通した概念と理論の確立が期待される.
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。