要約  近年の精神医療の進展で,開放化やコミュニティ・ケアなどの社会復帰活動が促進され,慢性の統合失調症者が社会で生活することも多くなったことから,統合失調症であれば責任無能力として刑が免ぜられるとは限らず,障害者に対して相応の権利と責任が求められるようになった。さらに,近年の操作的診断では「精神の障害」の概念が曖昧となったことから,責任能力の判断において生物学的要素としての「疾病性」が軽視され,心理学的要素としての「弁識能力」や「制御能力」などの比重を重視しようとする傾向が窺われる。しかしながら,われわれ精神科医は,精神鑑定における精神医学的診断の重要性を認識し,この「疾病性」こそが,責任能力判断の原点であることを銘記しておかねばならない。