Answer はじめに  静脈血栓後症候群(postthrombotic syndrome:PTS)は,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の晩期合併症として以前より知られており,初期の臨床研究1)ではDVT患者の80%以上で15年間の経過観察期間中にうっ滞性潰瘍を併発したと報告されている.近年,DVTに対する診断技術の向上や初期治療法の確立などにより潰瘍を伴う重症例の頻度は激減したが,最近の報告でもDVT発症後のPTSの発生頻度は20~50% 2)-4)とされており,実際に相当数の患者が現在でも本症候群に罹患しているものと考えられる.また,QOLに関する最近の検討5)6)で,他の一般的な疾患と比較してもPTS症例のQOLが低く,長期にわたり罹患患者のADLに影響を及ぼしていることが明らかとなり,欧米ではDVT合併症としてのPTSに対する予防,治療,管理が重要視されつつある.  一方でPTSは,明らかなDVTの既往を有し,浮腫,疼痛,湿疹,皮膚硬結,色素沈着,潰瘍,静脈性跛行などを認める慢性静脈疾患と定義されるが,“症候群”という名が示すとおり症状・徴候に幅があり,個々の患者によって重症度が大きく異なる点が特徴である.それゆえ,現状ではgold standardといえる明確な診断基準や適切な評価法が確立されておらず,この点もPTSの診療,研究における大きな課題となっている.本稿では,PTSに対する臨床的診断法,評価法について概説するとともに,評価の標準化に向けた最近の欧米の動向についてもふれる.