Summary  下部脳幹内のpre-Bötzinger complexを中心とする呼吸調節神経回路網の分布領域は呼吸中枢と呼ばれ,自動的な呼吸リズム形成を担っている。呼吸中枢が高度の低酸素状態になると,いったん呼吸が停止した後に,自己の蘇生を目的としたあえぎ呼吸(gasping)が出現する。呼吸中枢の腫瘍は,失調性呼吸(ataxic breathing),低換気,睡眠時無呼吸を惹起する。延髄腹外側部の障害(Wallenberg症候群)では,ataxic breathingや無呼吸を呈する。延髄腹外側最表層部の障害は,中枢呼吸化学受容機構の機能低下,睡眠時無呼吸を惹起する。延髄空洞症および多系統萎縮症(MSA)では,失調性呼吸,睡眠時無呼吸および突然死をきたす。多発性硬化症(MS)では,意識的な呼吸の障害,持続吸息(apneustic breathing),吸息相の間に吸息が中断する異常呼吸,発作性過換気が出現する。呼吸中枢の障害は,呼吸不全,呼吸中枢の酸素化悪化から,さらに呼吸中枢機能を低下させ,急激に死に至るため,酸素投与,人工呼吸による迅速な対処が必要である。