特集 循環器疾患におけるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の新たな展望
トピック ACE2の循環器疾患および感染症における意義
掲載誌
CARDIAC PRACTICE
Vol.32 No.2 36-41,
2022
著者名
久場 敬司
記事体裁
抄録
/
特集
疾患領域
循環器
診療科目
循環器内科
媒体
CARDIAC PRACTICE
Key Words
レニン・アンジオテンシン系(RAS),ACE2,SARS-CoV-2,スパイク,B38-CAP
レニン・アンジオテンシン系(renin-angiotensin system:RAS)は,腎臓由来の昇圧物質としてのレニンの存在が19世紀末に報告されて以来,100年以上にわたって研究されてきた。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(angiotensin converting enzyme:ACE)はアンジオテンシン(Ang)Ⅱを産生するRASの実行因子であり,ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blocker:ARB)が降圧薬として臨床で使われていたなかで,2000年になって最初のACE相同分子としてACE2が発見された¹⁾ ²⁾。ACE2の酵素活性はAngⅡを基質として分解し,AngⅡ量を減少させることにより,RASを負に調節する。また一方で,ACE2は2003年のSARSコロナウイルスの感染に不可欠な受容体であることがわかり³⁾ ⁴⁾,その当時の研究からACE2の酵素活性が急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)に対して肺保護的に作用することがわかった⁵⁾。さらに,現在のSARS-CoV-2でもACE2は感染の受容体であることがわかった⁶⁾ ⁷⁾。2003年のSARSコロナウイルスは,感染するとほとんどの症例で激しい肺の炎症を引き起こし,ARDSを高率に発症するため感染者の同定が容易であった。これに対して現在のSARS-CoV-2は,感染性が高い一方で無症状が多く,また軽症から一部の中等症,重症に至るまで症状の幅が広いため,SARSコロナウイルスのときのような隔離や封じ込めが困難である。ACE2受容体はウイルス感染に重要な因子として注目され,パンデミックが始まった当初は体内でのACE2の発現分布や発現制御に関する研究が次々と発表された。本稿では,ACE2の酵素活性とSARS-CoV-2受容体の二面性に焦点を当てて概説する。
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