ラフトは,細胞形質膜上のシグナル伝達のプラットフォームとして働いていると考えられてきた(図1)。形質膜上の分子のラフトへの局在を知るために,1)界面活性剤不溶性か?,2)人工膜上の秩序液晶相(liquidordered phase)に分配されるか?,あるいは3)免疫染色後にラフトに入ることが確実なGPIアンカー型蛋白質などの膜分子と共局在するか?などがしばしば調べられてきた。しかし,(1)界面活性剤不溶性画分と形質膜上のラフトとの関係は明確でなく,(2)人工膜とは違い,形質膜のような多種の脂質が存在している系で37度で相分離が起こるという議論は乱暴であり,(3)細胞固定後の免疫染色時の抗体使用で分子の局在を変えてしまうかもしれない1),という問題があった。筆者らは,これらの問題を考慮し,生きている細胞の形質膜上で,ラフトマーカーであるGPIアンカー型蛋白質のCD59や糖脂質のガングリオシドプローブの1分子観察を行い,ラフト動態を研究してきた。ここでは,1分子観察により明らかになった,定常状態のラフト構造,信号入力後のラフト組織化と機能について記述する。